第25話 力VS爪
(第三者目線)
「……何よ、あれ」
「あれが彼の、アドバンスだ」
「アドバンス……?リーダー、今あなたが何を言っているのか、分かっているのですか?」
「あぁ。分かっている」
「だったら尚の事ありえないでしょう!?」
突然天井に浮かび上がった模様に誰もが戸惑ったが、唯一螺旋のリーダーである坂本は平然としていた。それに疑問を抱いた苑宮が彼に質問をしたのだが、その答えに対し大声を上げたのはさっきまで黙っていた箔南だった。
「アドバンスは、スキルを何度も何度も何度も何度も使い続けても発現するか分からない、才能だけが物を言うスキルのその先なんですよ!?それがただの高校生に出来る訳が……出来る、訳が……」
「そう言われてもな。今目の前で起こっていることが真実だ。アドバンスの発現条件は解明されていないが、もしかすると、その解明されていない発現条件を彼は達成したのだろうな」
「それでも……!」
「箔南」
「っ!」
「今は目の前のことに集中しろ」
「……分かりました」
奏と錐揉は彼らが一体何の話をしているのか分からなかった。が奏は自分のスキルを使い、その正体を即座に見抜いていた。
(……アドバンス。成程、スキルの成長が限界にまで達した時、または一度スキルが滅んだ時に僅か3%の確率で発現する、スキルの進化系、ねぇ……3%って低すぎじゃないかしら)
だがそんなものだったら今目の前で起こっていることも納得だ。
「ぐあっ!?」
「どうしました先輩!もっと攻撃してきてくださいよォ!」
「クソガアアアア!!!」
ザシュッ!
洌崎のスキル、“爪”によって長く、鋭くなった爪が容赦なく菅十の体に傷をつけた。が、即座にその傷は無くなった。
「傷がついただけでそれほど痛くもないですねェ?こんなもんですかァ?」
「……っ、ぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」
何度だって修羅場を潜り抜けてきたし、何度も死にそうにもなった。だがそんな経験が今の洌崎の強さを作り上げていた。
決して彼が弱いのではない。ただ、菅十が経験したのは本物の死だ。
洌崎は死にかけた経験はあっても、死んではいない。
菅十は実際命を奈落の底に落とし、そこから不屈の精神で地の底から這い上がってきた。3%を底力で掴んだのだ。
結局、言ってみれば覚悟の違いである。
菅十は3歳の時から今まで奏に片思いしている真っ最中である。本当は相思相愛で彼が鈍いせいでまだ気づけていないだけなのだが。
故に彼の胸に宿っている奏に対する想いは、ただ一目惚れしただけの洌崎になぞ負けるわけが無かった。
まぁ、ただ奏のことが好きってだけで地獄から蘇った菅十もどうかとは思うのだが。
「はああああああ!!!」
「がっ!?」
菅十の拳が洌崎の爪を粉々にする。が、それでも洌崎は諦めずにすぐに爪を生やし、再度攻撃する。
「スラスターァァァァ!!!」
「っ」
両斜め上からの引っ掻き攻撃。咄嗟に菅十は両手をクロスさせるも、両腕がズタズタになってしまった。
「ふんっっっ!!!」
「っ!」
だがそんな傷も気合一発で治すことができる。その光景は何度見ても人のものとは思えないものだった。
そしてふと彼は何かに気づいたのか、突然ニヤリと笑いだし、叫ぶ。
「力が溜まったァァァァ!!!血気上回ッッッ!!!」
瞬間、天井にあった幾何学的模様が剝がれるようにして落ちてきて、彼の体に吸収された。
そして全て彼の中に取り込まれ、天井が元の色を取り戻した時、彼は手のひらを閉じて開いてを繰り返し、体に染みついた感触を確かめていた。
「レベルリセットォ……いいねぇこの感じ」
「な、何が起こった……?」
洌崎は肌で感じていた。一瞬にして彼の纏っていた空気が変わったことを。その事に対し何か不吉なものを感じていると、自身の体を確かめ終わったのか洌崎の顔を見た彼はニヤリと何かを期待するかのような目で洌崎に問うた。
「洌崎さんももちろん、アドバンスは習得してますよねェ……?」
「くっ……そがぁ……!習得してるわけねぇだろ!!!」
そう洌崎が叫ぶと、今まで笑っていた菅十の表情は一変し、無となった。
「……そうだったんですか。なァんだ────つまんねェの」
「ッッッ!!!」
瞬間、菅十の体がブレた。それと同時に洌崎の姿が一瞬で搔き消え、
バババンッッッ!!!
まるで銃撃音のような音が第九層内で響き渡った。
「フンッッッ!!!」
「ガハッ!?」
そして思いっきり壁にめり込んだ洌崎は、肺にあった空気が全てその口から抜け出した。それを最後に彼は動かなくなってしまった。
「……あっけねェなァ────あ、終わっちった」
そしてそれを確認した菅十は今までのような凶暴な表情が嘘みたいに消え失せ、いつもの彼に戻った。
「リーダー、終わりました」
「おう」
「「「「……」」」」
あまりにも早く戦闘が終わってしまったがために、坂本以外の四人は言葉を失っていた。それほどまでに、今見た光景が夢のようなものだったからだ。
「あれ、どうします?」
「一応上に持って行って、今回の作戦を妨害したとしてしかるべき場所に持っていく」
「了解っす」
そして動かなくなった洌崎を回収すべく菅十がその場を離れしばらくすると、ようやく言葉を失っていた四人が動き始めた。
「……アドバンスって全部ああなの?」
「んなわけあるか。あれは特別だよ。きっと、自分のスキルについて完璧ってほどじゃないがある程度は理解してるんだろ。だからあんな戦い方ができる」
「……」
「はぁ……」
「……どうして溜息?」
「あぁ、ちょっとね。錐揉さん、菅十の動きを封じるにはどうすればいいと思う?」
「……それは肉体に働きかける感じで?」
「……それは無理そうだから別の方法で」
「……だったら普通に接してればいいんじゃない?」
「と言うと?」
「……今日見て、彼、あなたの言葉にはほとんど従ってる。だから普通にしてればいいと思う」
「……そう」
そして奏は錐揉からのアドバイスを受けて、後ろ向きになっていた気持ちをなんとか前に向かせたのだった。
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