第38話

(千代久奏視点)


 ここは第二一層。まさかここに来るまで菅十の姿を見つけることができないなんて思ってもみなかったが、こうなってくると彼はもっと奥に行っているのかもしれない。


 しかし、この階層に来る前にあのハイウルフが殺されてしまい、今乗っているモンスターはジャイアントアントになっている。このモンスターもかなりの速さがあるが、やっぱりハイウルフの方が速かった。


 だがまぁ、これでもいいだろう。


「GGRRRRR」


「喋る必要ないでしょ?あなたも私なんだから」


 結局このモンスターの頭の中に在るのは私の脳なのだから、これも私だと言える。私と同じなのだから考えることも同じのはずだ。だから喋る必要などないと言ったのだが、


「GGRRR」


「ん?」


 まるで前を見ろとばかりに顎を前にクイッとしている。私は疑問を覚えながら彼(もしくは彼女)の言う通り前を見れば────



「────何これ」



 目の前に広がってたのは、惨劇と呼べるものだった。周りにはまだ灰になっていない酷い有様のモンスターの死体があちらこちらに散らばっていた。殺されてまだ時間が経っていないものばかり────つまりここに彼がいる。


 私はゆっくりと地面に足を付ける。しかし地面がかなり荒れているせいか少しだけ躓きそうになった。


 至る所に強く踏み込まれた足跡が。


 こんなに激しく戦うようなモンスターがここにいると言うのだろうか。もしそうだとしたら私の命もかなりまずいかもしれない。


 だったら────


「GR!?」


「え!?」


 直後、隣にいたはずのジャイアントアントの頭がまるで爆発したかのように吹き飛んだ。私は突然の出来事過ぎて固まってしまい、近くまで来ていた植物型モンスター────テンタクルスの存在に気づくのが遅れてしまった。


「っ!?」


「RRRRRAAAA!」


 私は即座にスキルで自分の脳を重ね、思考を加速させる。そして加速した思考の中で今の私に使えるものをできるだけ使っていく。


「スキルコピー────“胴体加速”、“高速処理”、“自動回避”────稼働開始!」


 そして最後に放った一言と共に、その前に言った三つのスキル効果が私の体に適応される。頭に流れてくる情報を意識して処理を行いつつ、目の前まで来ていた私を襲い掛かってきた攻撃を避け、その場を急いで離れる。と同時に手に持っていた銃で襲ってきたモンスターに狙いを定めて二度三度撃った。


「RRRRAAAA」


 それらは片手間で振り払われてしまうがそんなことなど分かり切っていた。動きを少しでも止めて離れられるだけの時間を得ることが出来ればそれでよかったのだ。


 そしてこれほど距離が離れていれば十分スキルを使える。


「はっ!」


「RRAA!?」


 私は襲ってきたモンスターの頭の中に自分の脳を生み出し、自我を失わせる。少しの抵抗を見せたがすぐに虚ろな目に変わり、直後に構えていた爪を降ろした。


「ふぅ……」


 一時はどうなるかと思ったが、何とかなってよかった。私の言いなりとなったモンスターの上にまた乗り、この層で彼を探すことにした。


「RRRAAA」


「……やっぱり自我が生まれてるのかな」


 ここまで何度かモンスターを変えてきているからか、そのモンスターの記憶をどうやら受け継いできているらしいのだ。そのせいなのか、自我が芽生え始めている。その傾向はさっきのジャイアントアントの時も見えていた。


「ま、いっか」


 私は特に気にしないことにした。それで特に悪影響はでないと踏んだからだ。最後に私の方に脳は戻されるが、厳密には別々なのでその記憶が私の方に入ってくることは無い。


「それじゃあ────」


 そうして探そうとした、その時だった。



「────いたなァ」



「「っ!?」」


 私と私が乗っているモンスターがその声が聞こえてきた途端、咄嗟にテンタクルスは私を乗せたままその場を離れる。直後、そこを物凄い速さで何かが通り過ぎた。そして避ける前に聞こえた声に、まるで背筋が凍るような錯覚を覚えた。


 今まで何度も聞いてきた声のはずなのに、今まで聞いてきたどの声とも違う。


 これは────彼じゃない。


「……菅十」


「ん?お、奏じゃん。よくここまで来れたねェ────で?殺り合いに来たのかァ?」




 ────彼の皮を被った、化け物だ。

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