第39話

(千代久奏視点)


「殺り合いに来たって……そんな訳ないでしょ。帰るわよ、そろそろ」


「帰るって……何でさ?別に帰らなくてもここで暮らせるぜ?だってほら」


 そう言って彼はそれはそれは嬉しそうに大きく両手を広げた。


「こんなに大量の食糧があるんだぜ?それに遊び相手だって。俺は外よりこっちの方が天国なんだよ!」


「はぁ……そんなんだろうと思ったわ。ったく、?」


「は……?」


 私がそう聞くと一瞬何を聞かれたのか理解できず頭を傾げたが、分かり始めて私の質問がおかしいものだと思ったのか笑って返事を返してくれた。


「ハハハッ!何言ってんだ!?俺はだぜェ!?」


「……そう」


 この問答でもうわかってしまった。


「あ、やっぱ殺し合いしに来たんだな!」


「はぁ……もういいわ。やるわよ」


 私はテンタクルスから降りて、手にしていた銃を構えつつさっきのスキルコピーで使ったものをもう一度使った。


「っ!?」


 しかし私とテンタクルスは嫌な予感が駆け巡りその場をまた離れた。


「ハハァ、いいねェ!これを避けれるなんて!予想外だなァ!」


 狂乱を宿しているとしか思えないその目で私たちを視界に納めた彼は、一直線でさっきよりも速く駆け抜けていった。その速度は音速を超えるやもしれぬほどのもので、避けるのが精いっぱいだった。


「RRRAAA!?」


「少し千切られてる……!」


 テンタクルスの触手が少しだけ無くなっている。避けきれなかったのね……。けどすぐに生えてきていたから問題なさそう。


「……」


 このまま攻撃を避け続けても多分だけど彼の暴走が止まることは無い。もうこれは彼の意識の問題になってきている。止まってと呼び続けてもきっと聞こえない。聞いてくれない。


「結局こうするしかない……のね」


 彼のスキルは常時発動型であるため、オンオフの概念がまず存在しない。けれどどんなスキルだってずっと発動することなんてできない。いつか燃料切れを起こす。その燃料切れは持ち主の命に関わって来る。


 その為にオンオフの概念が無くとも強制停止の概念は持っているはずなのだ。そしてそれはよほど意識それを意識しないと起動しない。そんなこと、今の彼がするわけがない。


 だから私が強制的にスキルを、アドバンスを止める。


 そんなこと、普通はできないけど。アカシックレコードに触れて方法は分かっている。本当はしたくなかった。けど、こんなことできるのは私のスキルだけ。


「っ!」


「はあっ!」


 放たれた拳が私の頬を掠める。なんとかして見極めることができたが、もしスキルコピーの効果が切れてしまったら最後、すぐに殺されてしまう。


 私が死んだらもしかしたら正気に戻るのかもしれないけど、それでは彼を一人にしてしまう。そんなのは駄目だ。私は彼と一緒にいるって決めてるんだから。



 ────死ぬ時は、菅十と一緒に死ぬ。それ以外許さない。



 それにまだ彼は私を舐め切っている。だったら大丈夫だ。私は彼の癖を熟知しているのだから、スキルを使うタイミングもしっかりと見切れる。


「いいねェいいねェ!これくらいできなきゃなァ!」


 その叫び声一つで私の体はすぐに逃げ出したいのか、少しだけ硬直してしまうけれど無理矢理動かし続ける。一歩間違えれば死ぬような時にまるで命綱を振り回しながら遊んでいるみたいな、そんな状況に体が悲鳴をあげるけれど彼の為ならこの程度の苦痛何ともない。



 ────だから、もう少し踏ん張れ、私。

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