第42話
「どう?これ。急遽作ったんだけど」
遠くから奏の声が聞こえてくる。俺は目の前にいるはずの奏の口が一切動いていないことで少し混乱したが、視界の端にもう一人の奏を見つけて納得した。
「成程なぁ……なんで?」
納得したからと言って疑問が残らないわけが無かった。避けながら思う……何で二人いるんだろう?
それはすぐに遠くにいるほうの奏が教えてくれた。
「私のスキル、“脳”の力よ」
「へぇ、そっか────だからって分身作れないだろうが!?」
迫りくる剣を避けながらそうツッコむと、今度は奏の分身が笑いながら答えてくれた。
「私だって奏なのよ」
「……ん?どゆこと?」
「あそこにいるのも千代久奏だし、ここであなたに斬りかかってるのも千代久奏なのよ」
「……えっと?」
「ま、馬鹿なあなたにはわからないでしょうね」
「……性格変わった?」
「そういうあなたは戻ったようね」
「……そう言えば」
俺を止めにきてくれた奏がなんで逆にハイになってんだろ。まぁいいや。どうせあんなんだけど問題なさそうだし。
「ふん!」
「チッ」
激暴曼荼羅の制限時間が迫ってきている中、このまま負けるのはなんか癪に障るので取り敢えず剣を破壊する。
と同時にかなりの申し訳なさを感じながら剣を失って少し固まった奏を蹴飛ばした。
「酷いわ。彼女を蹴るなんて」
「よく言うなぁ。正体生粋のバケモンじゃねぇか」
蹴飛ばした奏は原型を保てずにボロボロとその皮が剥がれ落ち、さっき大量に召喚していた触手に変わっていた。
「もう、折角成功したのに。一応それも私だったんだよ?」
「それはもういい」
「いやほんとに」
「……どゆこと?」
「いやね?今もだけど私、思考加速してるわけ。そんでその間にすこーしだけスキルを改造して、三つ目の脳を増設したの」
「……」
「そうすると本体の私と意思を持たない二つの脳をどのように使おっかなって思って、だったらいっそAIみたいに一体のモンスターに二つの脳を組み込んで見た目だけでも私と同じ感じにしてもう一人の私を創っちゃおうって思ったの。意思とかそういったもんはここに来るまでに第二の脳が得かけてたんだけど正直私の指示に反するかもって思ってどこかで消したかったんだよね。だから第三の脳でそれを制御すればいいじゃんって思いついて、こんな感じになったってわけ。だから一応人間的感情を持ちつつ私の指示に従う忠実なもう一人の私なのよ、あれ。」
「……簡潔に」
「私の分身を二つの脳で作った」
「成程」
だったら壊してもよかったな。俺の考えに間違いはなかったようだ。
「それもアドバンスの能力か?スキルを拡張するのはまぁそうなんだけど……そこまで普通できるのか?」
「そこはほら、今私のスキルってこの階層ないし大穴と接続してるから。そう言った無茶も許されてるのよ。今の私はキャパシティー無限大だから何でもできるってわけ」
「……あ、そう」
「だから、覚悟しておいてね?」
そう言って、突然覚醒しはじめた奏の猛攻が始まり────
「────あ」
激暴曼荼羅の効果が切れてしまった。
「これで─────終わりっ!」
「ぐっ!?」
疲れた体に鞭打って咄嗟に頭上で両腕をクロスする。奏が放ってきた重い一撃が俺の両腕にのしかかってきた。歯を食いしばってそれを耐えるもかなりしんどい。
正気を失いかつ体力も無限にあったとはいえ、まさかここまで強烈な疲れが襲い掛かってくるとは思ってもみなかった。
「っ!」
「GAAAAAA!!!」
更に横からハイウルフが嚙みつこうと突っ込んでくるのでそれも避けないといけない。
まずい……集中力が落ち始めてきた。
「もしこれで俺が正気に戻らなかったらどうするつもりだったんだ!?」
「あなたの頭に私の脳を一時的に生み出して言いなりにしようとしてたわっ!」
────怖っ!?
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