第43話

「はぁ……はぁ……もう無理、動けない……」


 地面に倒れこんだ俺を上から奏が覗き込んでくる。


「どう?満足した?」


「……最後奏のほうが楽しんでた気がするんだけど」


「ん?」


「────何でもないっす」


 激暴曼荼羅の効果が切れ、遂に俺は指の一つも動けなくなっていた。その上今まで溜めていた“力”もこの戦闘で使い果たしてしまい、今の俺は学校に入学してから数か月経った辺りの頃の状態にまで下がってしまっていた。


 そもそもこの“力”というのは筋肉のレベルを表したようなようなものなのだが、俺自身詳しくそれを認知している訳ではない。大体これくらいかなぁ〜程度でしか把握できていないのだ。


 しかし今回、自分でもはっきりと分かるほど自分のスキルが弱体化した。こんな感覚は初めてだった。


 これ以上ここにいたら今の俺じゃあすぐに死んでしまう……そうしたらアドバンスをもう一度発現させないといけなくなってしまう。

 奏と一生何もせずとも一緒に過ごせる分の金は今回で稼ぐことができているはず。


 ……だったらもういいか。これ以上は。


「それじゃあ行くわよ、そろそろ」


「……うん」


  そう言って彼女が向かおうとしていた方向は────出口とは真逆だった。


「どこ行こうとしてんだよ。出口はこっち────」


「何言ってるの、こっちよ」


「……は?」


 俺が何を言っているのか理解に苦しみ素っ頓狂な声を上げている間に、彼女は俺の腕を掴んで引っ張った。


「ほら、行くわよ」


「いやいやいや、だから出口はこっちだって」


「私がいつ出口に行くなんて言ったのかしら?」


「……はい?」


 そこで今の彼女が少しだけおかしいことに気づく。俺は掴んでいる彼女の手を振りほどいて少し離れる。




「────?」




「……」


 いつから、彼女が……?そもそも、これは本物の奏なのか?


 すると、俺の問いに答えてくれなかったは言葉ではなく行動で答えてくれた。


「目の焦点が……」


『よく分かったね』


「左右目をバラバラにして奏の声で答えるな────化け物……いや、モンスターか」


『正解……安心しなさい、本体は私の存在に気づいたのか今は殻を作って隠ってるから。ったく、もう少しで消滅できたはずなのに……』


「……お前は、あれか。あの時のもう一人の奏か」


『なんでそこまで頭が回るのかしらね。元の記憶とかなり乖離しているのだけれど……まぁいいわ。そうよ、あの時あなたに斬りかかったのが私。その時あなたのスキルをちょっとだけ吸収させてもらったわ』


「なるほどな」


 激暴曼荼羅での消失以外でこいつにも流れていたのか。道理で減っている量が多いと思っていた。


 だったら、奏を取り返して、ついでに俺の今までの経験値も返してもらうとしよう。


『テンタクルス』


「っ!」


 そう彼女が言った突如地面から多数の、さっきの触手のモンスターが出現した。そして俺を認識したのか即座にその触手を、さっき以上の速度で放ってきた。

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