第45話

『……くっ』


 奴は苦しそうに顔を歪ませると、近づいてくる俺から離れようと後ろに下がる。俺がまた近づこうとすると更に奴は下がり、そして手のひらを地面に向けて何かし始める。


 直後。


「っ!」


『……いけ』


 地面に出てきた複雑な模様が光り、そこから数体のテンタクルスが出現した。しかしさっきのとは色が違っており、どうやら最初に出したやつの上位互換のようで触手の数が明らかに増えていた。


 そして奴の号令と共にそのテンタクルスらはさっきと同じように一斉に触手を俺に伸ばしてきた。


「はっ!」


 迫りくる触手を軽いステップで避けながら近くのテンタクルスの傍まできた俺は、さっきと同じように見つけた弱点をついたのだが────


「……やっぱ違うよなぁ」


 拳から帰ってくる振動からほとんど手ごたえを感じなかったうえに、全く効いている様子が無かった。俺はすぐにその場を離れる。しかし離れた先の地面から突然針が飛び出してきた。


『……チッ』


 それも咄嗟に避けると奥で奴の舌打ちが聞こえた。この程度の奇襲は奇襲とは呼べない。あまりにもバレバレだった。しかし奴に攻撃できずにこれが続くとなると結構厳しいものがある。


「……さて、どうしたものか」


 まずは目の前のテンタクルスどもを殺さないといけないが、奴らの触手がさっきよりも固くなっている。頑張って弱点を突かずに殺したいが殴ってその防御力を貫通できるほど今の俺には力が無かった。故に弱点を見つける必要があるが、それを見つけるには、まず奴らを観察する必要がある。そして予想を立ててそれを検証する。


「ふん!」


 俺は取り敢えず脳天を突き刺そうとしていた触手を掴んで引っ張る。するとテンタクルスはその場に踏み止まろうと自身の触手を地面に突き刺した。


「おらあああ!」


「GGGRRRR!」


 綱引きのような形となってしまったが、力勝負で負けるなんて微塵も思っていない。


「はあああああ!!」


「G、GRRRR!?」


 もう一体が放ってきた触手も掴むと、一気に二体の触手を引っ張った。すると奴らの根元からズルズルと中身が出てきた。


「気持ちわりいなぁあああ!」


「「GGGGGRRRRRR!?」」


 叫びながら俺はそれらを引いた。すると最初に出てきたテンタクルスと違ってこいつらの触手はどうやら中の臓器と繋がっていたらしく、そこから大量の血と思われる緑色の液体が滝のように出始めた。そしてその触手の先にあったものは見た目からして心臓のようだ。


「え、これが弱点……?」


 俺は唖然とした。


 鉄のように固い触手を千切ろうものなら相当な力が必要で、俺も結構力を入れないと千切ることができなかった。だから弱点は外側のどこかにあるのだろうと思っていたが……これ普通に倒すの無理じゃね?


 普通の剣とかだったら絶対に刃が通らない。俺だからこそ知ることができた強化版テンタクルスの弱点。


「でも殺し方は分かった……いける!」


 俺はとにかく奴らに近づいてどんどん触手を根元から引っこ抜いていく。時々途中で千切れてしまうがそれはつまり俺の力が増している証拠。これなら問題ない……!


 ……と思ったのだが。


『……すぐに死ぬな』


「っ!?」


 奴がもう一度手をかざすと、さっき死んだばかりのテンタクルスが何故か息を吹き返した。あれも大穴の管理者権限なのか……?明らかにその範疇を超えていると思うんだが。


「……」


 これ以上キツイな……。


 そう思い冷や汗が流れ始めた、その時だった。突如奴は頭を抱え始め、その場に膝を付けた。その表情は痛みに耐えているのか盛大に歪ませており、顔中から汗が

滝のように流れ始めた。


『─────っ!?まさか……!?』




 それを見て俺は確信する。間違いない。


 ────やっと来たようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る