第46話
『くそ……っ、まさか……っ!』
「奏か!」
突然奴が苦しみ始め、それが奏によるものだと気づいたのは一瞬だった。彼女が遂に本格的に抗い始めたのだ。
だったら、俺はそれの手助けをするだけ……!
「はあっ!」
『……くそっ!』
「このまま攻め続ける!」
『早く私を守れモンスター共っ!!!』
そう叫んで命令した奴の顔には、さっきまで余裕そうだった面影など一ミリもなくなっていた。そして動くたびに頭を抱え痛みに耐えている様子が見えた。
奏の抵抗が強まってきているのだろう。ここに来て彼女は一気に攻勢に出始めている。今奴は奏との意識の奪い合いをしている上に俺からの攻撃からも避けないといけない。その為意識を両方に割かないといけくなり余裕が消えたのだ。
俺は復活したテンタクルスを一気に数体殺し、思いっきり地面を蹴った。
その直後、生き残っていたテンタクルスが触手を飛ばし俺の左腕を掴んで引き裂いた。
「っ……!?関係っ、ないッッッ!!!こんなもので俺が止まると思ったらあまりにも甘い思い込みだなァ!!!それに────」
この状況、あの時に似ている……!
このまま出血し続ければ俺は死ぬ。それは間違いない。連戦に次ぐ連戦で俺は血を流し過ぎた。
視界がぼやけ始めた……!
目の前の光景が白で染まり始める。このままいけば何も見えなくなるだろう。歩を進めた先はこの世ではないだろう。
「だがなァ……!こんなんで俺が奏を見逃すわけねぇんだよッッッ!!! こんなとこで俺が死ぬわけにはいかねぇんだよッッッ!!! 16年の片思い、舐めんじゃねぇぇぇぇぇええええええ!!!!!」
声を轟かせ、視界がもう見えなくなるその時まで、俺は走り続ける。
スキルが俺の命を繋ぎとめようと溜めていた力を生命維持のほうに回し始めた。
「そんなの、許されるわけねぇだろうがッッッ!!!」
俺はそれを意識して止め、足と腕に流し始める。
体が悲鳴をあげ始める。全身が俺にもう無理だと、このままだと死んでしまうと叫んでいる。だけど俺はその全てを無視した。
最初に特異モンスターと戦った時にはなかった体の悲鳴。本能が理性に知らせる最後の警告。
だが俺はそれら全てを自らが最初から持っていた“狂気”で塗りつぶした。
口角が自然と上がる。もう目は何も映してくれないし、両手両足の指先の感覚だって無くなり始めている。だけど俺は今こんなんでも笑ってんだって言うのは分かる。
だって、奏がいるところから恐怖の感情を感じるから。
『……な、なんなんだ、おま────』
「聞こえねぇなァ……!んなこったぁ知らねえんだよ。お前を殺して、奏を取り戻す……!」
もう自分が本当に動かしているのか分からないところまで来てしまったが、きっと大丈夫だ。微かな感覚が風を感じているから。
俺はきっと走っている。
地面を踏みしめて、奴へと一歩ずつ、それはそれは今までで一番の速さで近づいているはずだ。
きっと────
コツン……。
『─────は』
────きっと、奏はこの後すぐに戻ってくるだろう。俺の拳が、奴の胸に届いているのだから。
「ハハッ……」
そして俺は遂に、風を感じなくなった。
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