第48話
「────奏」
目が覚めるとすぐに俺は、最愛の彼女の名を呼んだ。しかし返事は帰ってくることは無かった。俺はゆっくりと体を起こし、周囲を見る。
最後に俺が死んだ場所だった。
もう、彼女はここにはいない。俺を復活させるために、自らを犠牲に消えていったのだ。
「っ……」
自然と目から涙が零れる。もう二度と、彼女に会うことができない。そう思うと、俺の胸の中にぽっかりと穴が開いたような、そんな錯覚に陥った。
「くそっ……何で自分を犠牲にして俺を蘇らせたんだよ……っ、一緒に死ぬんじゃなかったのかよ……っ!」
俺は無力だった。結局、最後の最後で彼女に守られた。
力をつければ、彼女に追いつけると思っていた。けどその力に振り回され結局彼女に迷惑をかけてしまった。もっと俺がしっかりとしていれば彼女が死ぬことなんてなかったのに。
少しでも彼女に追いつきたくて。俺を見直してもっと頼ってほしいなんていうしょうもない感情を持っているなんて悟られたくなくて。
しょうもなかったな、俺。
今思えば、俺はずっと奏に依存していたのだろう。彼女を守ると決めたのだって結局は恩返しをしたかったから。こんなだらしない俺を文句を言いながらも助けてくれた彼女に、少しでも感謝を送りたかったから。
いつしかそれは俺が生きていくための目標へと変わり、そして依存となってしまった。
依存し始めたきっかけはきっと彼女に恋心を抱き始めたから。少しでも彼女の傍にいたくて、ずっと俺を見ていてほしくて。
改めて本当にしょうもないな、俺。
「……」
そして俺の中にはもうスキルの痕跡の一つも残っていない。きっと死んだときに一緒に消えたのだろう。今の俺は何処にでもいるただの高校生。戦う力など持ち合わせていない。
そのはずなのに。
何故か周囲のモンスターは俺を一瞥するとまるで興味を失ったかのように俺を襲うことなくその場を離れていく。
「これも、奏のお陰なのかな」
本当に、最後の最後まで奏に迷惑をかけっぱなしだ。
「ハハッ」
そんな俺に馬鹿馬鹿しくなって、思わず笑いが込み上げてきた。本当に可笑しい。俺は何と滑稽なんだろう。
誰かいたらこんな俺を笑って欲しい。守るなんて大層なことをほざき、実際に出来ると信じて疑わなかったこんなバカな俺を。
「ハハハハハハハハハハハハハ!!!!あああああああああああああああッッッ!!!!」
狂ったように笑う。笑う。笑う……っ。
「ひぐ……っ、ぁぁぁぁああああ……っ」
わら……えない。
笑えるわけ、無い。
「……」
死にたいって物凄く思う。だって死ねば、彼女の元に行けるのだから。だけど、それは奏の覚悟を不意にするのと同じだ。
死ねない。だからこそ、苦しい。
俺はこの先ずっと、奏のいない世界を、奏を殺してしまったという罪悪感を抱えながら生き続ける。
別にそんなのはいくらでも背負うからいいけど、奏がいないことがかなり堪える。
俺はゆっくりと立ち上がると、奏の死体を探すために彼女がさっきまでいた場所へと目を向けた。
その時だった。
「────」
そこにいたのはテンタクルス。赤いテンタクルスだった。それが、奏がいたところで横たわっている。
奏の死体が、ない。
「─────菅十」
その声はいつだってスッと俺の耳の中に入り、そして────そう呼んでくれた。
「────────おはよ」
その優しい眼差しはいつだって俺を慰めてくれた。俺は緩んだ涙腺を締めなおすことができなかった。
俺はやっぱり、馬鹿だ。
これしきの事で、彼女が────奏が死ぬわけが無いのだ。
「────────奏」
「えぇ、あなたの彼女の千代久奏よ。さ、帰りましょう?」
「そうだな」
彼女が手を差し伸べてくれる。俺はその手をぎゅっと握った。
もう二度と離さないと決意を込めて────。
完
「この後役所行きましょ?」
「……それはまた今度で」
─────────────────────────────────────
これにて完結です!ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!ここまで来れたのもこまめに読んでくださった皆様のお陰です!
途中ストックが切れて一時はどうなるかと思ったんですけど何とかなってよかったです……。
新しい作品も書いている最中ですので是非次回作も読んでもらえるととても嬉しいです。
改めて本当にありがとうございました!
巨大な大穴で一攫千金を狙いたい少年VSそれを阻止して学生のうちに結婚したい少女 外狹内広 @Homare0000
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