殺人教唆

「悪いことがしたいな」

無邪気にきみがいうので、私は、じゃあ私を殺してみせて、と無邪気に返事をした。


そこからは、じゃれあったまま坂を転げ落ちるように、ビニールテープやガムテープをどこからか持ち出して、三角巾を細くたたんだのを目隠しにしたりして、殺人ごっこはリアリティを帯びていく。

きみはビニールテープで私の手足を縛り、私はそんなんじゃゆるくて逃げられちゃうよ、とほとんど叫ぶように紐をきつくするのをねだった。まるでそれは被虐嗜好者の病的な要求だった。


きみがガムテープで口を塞ごうとしたとき、私は指示ができなくなるからもう少しあとにして、と言った。殺人を指示する被害者なんておかしいよ、ときみは笑ったが、私はどうせ殺されるのなら理想の人に理想の方法で殺されたいのだ。無視をして次は目隠しね、と微笑み返した。


「もっときつくして、頭をいっぱい振ったら落ちちゃうもん」

目隠しも私はやはりきつくしてくれと要求し続けた。きみはもうこの遊びに飽きてきたらしかった。私が熱中すればするほどきみは冷めていく。


「もう終わりにしよう?」

きみは目隠しを外そうと私の頭の後ろに手を触れたが、私はぼそりと首を締めてからにしてほしい、と呟いた。きみが動きをとめて何も言えないでいるのを、私は笑った。悪いことがしたいと言い出したのはきみじゃないか。


目隠しも忘れずきつく、そう、縛って。……ついでに首も、きつく、……嘘だよ。

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