夏期講習
「こんなことしていたら誰にも許されないだろうな……」
また始まったか、君の架空のジャッジマンの話が。
夏期講習を抜け出した予備校の裏でふたり、タバコを吸っている。はっきり言って興醒めだからやめてほしいと僕は思っているのだが、彼女の中では、このセリフを吐くことで雰囲気が出来上がるのだろう。
「前から思ってたけど、なにがそんなに罪なの?」
「うーん、二浪目の夏なのに講習ドロップアウトしてだべってること、かな」
「へぇ、未成年喫煙はノーカンなわけ」
「アタシ昨日誕生日だったし」
「僕が君と出会ってからこれまでずっと吸ってたけどねぇ……」
まぁでも、彼女の言うことはわかる。頭ごなしに難関大学の医学部へ入れと強要し、重圧ばかりかけてくる親たち。浪人生のほうが世間体に障るだろうとランクをさげることを提案しても、「そんな中途半端な大学に入れるくらいならお前を殺す」と脅され、その学校へ入るためなら何年かかっても構わないと言うので、ささやかな抵抗として僕たちはここで喫煙する。笑ってしまうくらい彼女と僕の環境は似通っていた。……ほんとうはタバコのよさなんてわからないし、受験をあきらめて本当に殺せるものなら今すぐにでも殺してほしいくらいなんだ。
「僕が許すよ、って言ったらどうする?」
「……そしたらアタシ、自分が許せないよ」
わかってる。でもそんなだから君は、いや、僕たちは……
許すとか許されないとか君は言う 僕が許すのではまだ足りませんか
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