夢やうつつ

夜毎、貴女の夢を見る。

白いワンピースに身を包んで、大きすぎるくらいの麦わら帽子のつばに指をかけ、恥ずかしそうに俯いている。――わたしが今年の夏に、海辺で貴女の写真を撮ろうと、カメラを構えた、そのときの様子だ。


『……あの人、誰もいない方向を見て、誰かに話しかけてるよ』


不思議なことに、貴女の存在はわたし以外の人間の目には映っていないようだった。

わたしはどこへ行っても変人だった。

貴女は何者なのか? 直接問いかけてしまったら、わたしの瞳にも貴女の像が結ばれなくなる気がして、怖くて言い出せなかった。そしてわたしはひとつの仮説に行き着いた。

わたしは寂しい人間だ。両親、兄弟を空襲で亡くし、戦災孤児として、人には言えないようなたくさんの罪を犯して生きてきた。失う怖さを知っていれば、家族を作る気にもならなかった。しかしあるときから、貴女の夢を見るようになった。夢はだんだん現実的な質感になり、もう何年も貴女と暮らしているように、記憶の改ざんまでされるようになった。

思うに、貴女はわたしの寂しさの結晶なのだ。なにか小さな妖しのものを核に、わたしの寂しさを吸い上げて、貴女は受肉し、こうして添い寝をして髪の毛まで梳いてやれるようになった。

まだわたしには貴女が吸い上げる寂しさが残っている。そしていつか、わたしの魂までを吸い上げて、貴女は完全な、妖怪になるのだろう。



夢うつつに貴女の髪を指で梳く 存在のない貴女の髪を

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