曼珠沙華
学校の花壇には彼岸花が植えられていて、2学期になるとあの美しい花をたくさん見られるのだと思うと、夏休みが明けてもなにも憂鬱ではなかった。
家に持って帰ってお母さんに見せたら、喜んでくれるだろうか……? だけど学校の花壇に咲いている花を摘んでもいいのだろうか?
意を決して先生に相談すると、もちろん学校の花壇の花を摘んでいくのはいけないが、彼岸花は家に持って帰ると火事になると伝えられる花であって、不吉だからお母さんは喜んでくれない、と丁寧に言い聞かせられた。
そうかたしかに、火事になったら困る。ましてやうちは町営住宅。昨年の冬には隣の棟で大火事があってたいへんだった。お母さんが喜んでくれないなら意味はない。
けれどもどういうわけか休み時間の度に彼岸花を観察して、もう少しでその茎に手をかけそうになっている自分がいる。
どうして? お母さんは喜んでくれないのに。不吉な花だと言われているのに。
どうしてこんなにも自分の心が惹かれているのか?
チャイムが鳴って立ち上がったぼくの左手には、可憐な彼岸花が一輪握られている。
すぐ側に咲いて可憐な曼殊沙華 ひとつ手折りて想う先には
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