鍾馗水仙
白い彼岸花を見つけたとき、わたしは世紀の大発見をしたような気がしたものだった。調べてみるとそれは、鍾馗水仙と呼ばれる花だった。鍾馗なんていうととても強そうに聞こえるが、たしかにそれは白いだけの彼岸花としかわたしには思えなかった。
その白彼岸花は踏切そばに可憐に揺れていた。わたしはそこを通るたび、今日もかわいいな、と思ったりした。
あるときそこで人身事故があった。わたしの目の前で男の人が電車にはねられた。血が四方八方に飛び散って、あの鍾馗水仙にも血が染みていた。わたしは瞬時に目を背けたが、耳を塞ぐのを失念していて、身の毛もよだつような恐ろしい音を聞いてしまったので、その後はあの踏切を通れなくなったのは致し方ないことと言えよう。
そして、あの電車にはねられた男の人が、わたしの同級生で、かつては毎日遊び歩いた友ということを知ってしまい、わたしのPTSDはいっそう強いものとなったのだった。彼のことを思い出す度、耳の奥で電車に人間が轢き潰される音が蘇り、あの踏切、あの白い彼岸花が瞼の裏にフラッシュバックしてしまう。それは、踏切の音がどこからか聞こえてきただけでも、赤い彼岸花を見ただけでも蘇り、一連の思考は繋がっているらしかった。相当に悩まされたことは言うまでもない。
いまでも、あの踏切は通れない。そこに揺れていた鍾馗水仙も、いつの間にか赤い彼岸花になっている気がしてならない。
白色の彼岸花さへ血に染まり 想ひはいつか悲しき思ひ出
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