夕立に打たれ
下校途中に雨に降られるのは稀にあることだ。さらに、自分が折りたたみ傘を持っていなかったり、持っていたとしてもまったく無駄であるほどの激しい雨に降られることは、もっと稀だが、年に一度はあることだ。
そしていまがそれだ。折りたたみ傘を差せども、斜めに雨が吹き付けてくるのでなんの意味もない。雨粒がみんな大きい。みるみるうちにずぶ濡れになっていく。このときばかりは、教科書やノートの犠牲は諦めるしかない。雨宿りの出来そうな建物もない土手を歩いているのだから、もっと質が悪い。
連れ合いのSちゃんを振り仰ぎ、まだ止みそうにないね、と言おうとしたとき、Sちゃんの顔の輪郭に沿って雨粒が滴るのをはっきりと見た。ほんの少しの陽の光がその雨粒に集まって、とても神秘的に見えた。思わずはっと息を呑んだのを悟られまいと、咳払いをひとつした。
対して自分は、薄暗がりに閉じ込められて、どことは言えないがなにかがどんどん冷えていくのを感じている。
学校の人気者であるSちゃんを独り占めできるのはこの時間だけなのに、たしかな罪悪感に心が満たされていく。彼女に対する微妙な心の歪んだ部分が、濡れてしくしく痛む。冷えているのは、身体だけなのかもしれない。
「あとちょっとで家だから雨宿りしていきなよ」
Sちゃんの明るい声が背中に投げかけられた。
夕立の薄暗がりで濡れていく 冷えるは身体か 病める心か
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