爪痕
何度言っても、3回に1度きいて爪を切ってくれるかどうかの人だ。君は。そのくせ夜になればおれの背中に爪を立てて快感に耐える。君に襲いかかる快感が強ければ強いほど、おれの背中に血が滲む。
だが、実のところ君の本当の名前をおれは知らない。人待ち顔で待ち合わせスポットに3時間も立ち尽くしている君を見て、あの雨の夕暮れに声をかけてしまったが、未だにそれでよかったのか悩むときがある。君はおれに全然心を開かないうちに、お金を欲しがって身体を許した。おれは何度も服を着てくれと頼んだが、君は「私を抱いてくれなければいまここで死にます」と女だてらにドスの効いた脅しでおれを屈服させた。
以来、君がおれに会いたくなったときだけ呼び出されて肌を重ねるという、精神的には極めてドライな関係を続けている。お互いにお互いの素性はよく知らない。話そう話そうとは思うのに、君の不思議な瞳の引力に影響されて、なにも言えなくなる。
本当は、君になら死ぬほど傷つけられたって、それも甘い思い出として焼き付けられることだろうと信じて疑わないほど、心酔しているおれを感じる。だが君はおれには心を開かない。ただ背中に君の爪痕を感じると、君にもっと痛めつけられたい気持ちが、背中の痛みと共鳴している。
爪痕は背中にだけじゃ足りなくて、なかにもください、君の傷痕
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