ラムネ玉
蛍が現実に光っているのを生まれて初めて見たのは、たしか小学校高学年の夏休み。わざわざ山中の天文台に遊びに行った夜のことだったと思う。
あの頃の宝物ボックスには、ラムネ瓶からがんばって取り出したビー玉がいくつかと、河原で拾ってきた小石と、烏の羽根と……。とにかくガラクタばかりだったが、わたしには大切なものばかりだった。
大人になって、あの宝物入れはどこにやっただろう。その中身も、だいたいは引っ越した時に捨ててしまったのかもしれない。それでもラムネ瓶の玉だけはどういうわけか玄関の金魚鉢の中に息を潜めている。わたしがかつて子供であったことを未だに証明してくれているような……。
いまは近所の用水路の蛍保全活動に駆り出されている。毎年蛍まつりと称して近所の農家さんたちと開く納涼祭を終えると、もう今年が終わったような気分になる。
蛍の飛び違う様子を見ながらひとりビールを飲んでいると、あの頃のわたしが隣でラムネを飲みながら感嘆の声を洩らすのを空に聞く気持ちがする。これを聞くためだけに、蛍を守っていると言ってもいいのかもしれない。
蛍火の静かな炎に溶かされる まだ手放せないラムネ瓶の玉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます