レイニアの天使

雨に閉ざされた国レイニア。

1年のうち雨が降らぬ日は10日とない。この雨は人形師たちの涙とも、死をもたらす天使たちの涙とも言われる。


レイニアの天使たちは、死を運ぶのが仕事である。

善人には安らかな死の接吻を。

悪人にはおぞましき死の苦痛を。

この悪人に死の苦痛を与える汚れ仕事を、無翼の天使が受け持っている。


無翼の天使たちもまた罪人である。天使の身にありながら人に焦がれたり、過失で人を殺めたりと罪状は様々だが、罪を犯したと同時に、玉虫色に輝いていた双翼の色は失われ、闇のような汚れた翼になる。そしてその翼を、神自らの手でもぎ取るのが通例であり、無翼の天使たちはこれから先の久遠のときを、かつての美しい翼の醜い名残に苦しみながら、ひたすら悪人狩りをしなければならない。——返り血に染まる汚れ仕事を。



雨に呪われし国レイニア。

無翼の天使は思う。闇色の翼でも、生えていたほうがよかったか。玉虫色の翼を広げ天翔る同胞に引け目を覚えずに済んだ確証はあるか。

自らの罪の重さを、醜い翼の名残に想い、また今日も雨の降りしきるなかを人と同じように歩かねばならぬのだ。



有翼の天使の羽根は玉虫の色 無翼の天使の羽根は闇色

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