マンドリン

学生時代の楽しみは、前橋文学館に通うことだった。文学館の前の萩原朔太郎の銅像を眺めるだけの日であったり、常設展示の朔太郎ゾーンに行って『機織る乙女』の旋律だけのぼーっと聴いている日もあったりした。


当時のわたしは、萩原朔太郎の一面にほとんど恋をしていたと言っても過言ではないだろう。知的で芸術の才高き人にのぼせていた。学生らしい倒錯であった。


最も好きだったのは、マンドリンを抱いた朔太郎の写真。彼はギターも演ったので、実際に使っていたツバメ印のギターも展示されている。直筆の『機織る乙女』の楽譜を眺め、マンドリンを弾いている彼の横顔を夢想する。繊細で軽快な音色。


これがわたしの青春であった。いつかこういう人間になれると信じていたところもある。


いつからか彼への気持ちも落ち着いて、いまは年に数回通うだけであるが、文学館の自動ドアをくぐるたびに、あの頃のことを思い出す。




マンドリン爪弾く君の横顔に恋していたな 幸せだったな

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