両肩を抱く

その感情をチープに表現するなら、“喪失感”だ。

ああ、ああ、こんなはずではなかった。


嫌だ、どうして、なぜ君が、僕がいるのに、なにか言ってよ、ねえ


ああ、雨が降っている。


――あの人の死んだ日の雨だ。


君の縊死体をまともに見てから、この格好のまま動けないんだ。君はメドゥーサの血も引いていたのかい。……などと独り言ちても、君はもう笑って訂正もしてくれない。僕はただ、胸の中からあふれ出る感情を抑えつけるように、両肩を抱く。あの人が君を連れて行ってしまった。僕は、もう、雨に打たれるのに任せている。



宙吊りの少女の足に跪き雨ざらしの両肩を抱く

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