オルゴヲル

ケーキ屋のバイトをしていると、季節感を身近に感じる。クリスマスはもちろん、正月や節分のおせちケーキや恵方巻クレープ、ひなまつりのプチガトー、入園入学おめでとうデコレーションケーキ、いちごフェアのきらめくナポレオンパイ、夏みかんのミルクレープ、秋のマロンフェア……。あげればキリがない上にお腹も空いてくるのでここまでにしておく。


冬は特に、店内のBGMがオルゴールアレンジのクリスマスソングなので、外との温度差が激しい気がする。オルゴールの音色はあたたかみがあって、外の寒さに縮こまった灰色の街がさらに寒々しく感じる。


「あ……」


「雪だねぇ!!」


いままさにクリスマスケーキの予約書類を書き終わろうかという親子がショーウインドウの外を見て歓声をあげた。それは、ふわふわと空を舞う綿のような雪だった。

オルゴールの音が雪にでもなったみたいだな……。


「店員さん素敵なことをおっしゃいますね」


「え、声に出ちゃってました?」


「ええ、はっきり声になってましたよ」


母親のほうがおかしみを耐えるようにくすりと笑うと、子どももにっこりとこちらにほほえんで見せた。平和な年の瀬、毎年こんな気持ちになれたらいいな。



あたたかなオルゴヲルの音ふりまいて灰色の街へ白雪の積む

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