かたきうち

皿の割れる音、言葉になっていない罵声、床や壁になにかが当たる音、悲鳴。

幼少期の思い出は、それらの音とともにある。


わたしは包丁を研ぎ続ける。いつかこの包丁が父のだらしない腹に深々と突き刺さって、どす黒い汚らしい血をふりまきつつ、あっけなく絶命する彼の姿を思い浮かべながら。

わたしは平然と言うだろう。「包丁が刺さってしまった、わたしはなにもしていない。ひとりでに包丁が飛んでいった、わたしは包丁に触りもしていない」


いつかきっと、その死体を冷たく見下ろしながら、母の仇をとったと、高笑いする日がくる。絶対にそうなる。


わたしは包丁を研ぎ続ける。



「先生、またこの方うわごとを言っています、鎮静剤打ちますか」

「ああ、睡眠薬もよろしく。…………本日も心神耗弱状態続く、犯行時の記憶戻らず、か」



包丁を研いで煌めく切っ先が殺してくれると思っていました

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