ミューズ

どうやら僕はリャナン・シーにとりつかれたらしい。モルヒネで震える手を押さえつけてまで絵を描かずにはいられなくなった。病に倒れる前よりもずっといい絵をだ。


アパルトマンの一室で描きあげたのは青いドレスの女性。嘘みたいだが、夢でいつも見るリャナン・シーにそっくりな女性が描けた。あの美しさは絵筆では表現できないと、死にかける前の僕は逃げただろう。


彼女は僕のミューズだ。彼女にとりつかれてから、僕の唯一の客が絵画の値段を2倍につりあげて二十フラン出してくれるようになった。僕も、歌でも歌うように軽やかな筆を、自分で不思議と冷静に見つめてしまうときがある。どうしてこんなに描ける……? 彼女のおかげだ。


リャナン・シーにとりつかれた者は才能を与えられるかわりに早く死ぬという。そろそろモルヒネが効かなくなってきた僕は度々ベッドで苦しんで血を吐いた。噂がほんとうならそろそろだろう。


激しい血痕と冷静な筆致の青い絵が、僕の部屋で競い合うように並んでいる。




青い絵を描かせたミューズはリャナン・シー 二十フランで君を買わせて

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