ドレッサー

鏡を磨いてみたところで、アタシの顔が美しくなるわけではないのに。

ほとんど強迫観念といってもいいくらい、自分の部屋のドレッサーの鏡を磨いている。磨いてみたところで、ドレッサーの上に散乱する化粧品たちと、それらに彩られてもなお、愛される顔にはならないアタシの顔が、ただ曇りなく映し出されるだけだ。わかっている、わかっているのに。


娼婦という職業柄、特定の人間から溢れんばかりの愛を受け取るのは難しい。色恋を金にして生きる女は、常にいちばんの女の候補からは外れるからだ。旦那衆には必ず本妻がいて、彼女たちとアタシたちでは比重が違う。それは仕方ないことだ。


それでも。


アタシはうんざりするくらいの愛がほしいの。かつての同業者の女は、愛のために殺された女さえいたのに。心中した女だっていたのに。その男には本妻がいたのにも関わらず、だ。どうして、どうしてアタシは……。


今夜もどうせぬくもりだけが欲しい男がやってきて、勝手に満たされて冷たく帰っていく。


アタシも心まで愛されたいよ……。



“愛がほしい” 孤独な処女をとめの呟きと鏡に映るルージュのピンク

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