アナベル

返り血をまともに浴びた。わたしの真横に植わっていたアナベルの花にも、どす黒いしみがついた。


「もう戻れない、わかっているのか?」


あなたは殺してしまってからわたしに尋ねた。わかっている。これは計画犯罪だ。首にナイフを刺して引き裂いたのも、安いパーカーを着て犯行に臨んだのも、夜中の公園で襲いかかったのも、全部確実に殺すため、犯行の痕跡をわたしから抹消するため。

憎い女だった。わたしからすべてを奪い取ってなお、わたしから欲しがった。そして自分は不幸せな悲劇のヒロインを演じ、周りの同情を器用に買っていた。

わたしの通帳が不正利用されていると知ったとき、こいつだと思った。問い詰めると素直に吐いた。素直に謝れば簡単に許されると信じている女だ。甘っちょろい同情は買えても、不信感は拭えない。わたしの中のなにかがちぎれた音がした。


死体を埋めるべく、河原の砂をふたりで掘って汗だくになった。死体は体温が失われて、ゾッとする温度になっていた。


もう戻れない。わたしはほんものの犯罪者だ。

お前から奪い取った、唯一のものだ。大事にしてやるよ。


アナベルの白さを汚して、戻れない あなたと埋めた死体の温度

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