無声音

九相図というものを初めて知ったのは中学の頃だ。なにかの小説で読んだのがきっかけで、人体だけではなく、モノが朽ち果てて塵になるまでの衰微具合を観察するのが好きになった。


親には汚らしい趣味だと散々扱き下ろされるが、その汚らしさは人間も内包しており、有機物である限り免れない要素なのだと熱意をもって説明し続けている。未だに理解はされない。


この頃気付いたのは、自分が美しいと思ったものが朽ちていく様子を見つめるのは、心の中の触れてはいけない部分が刺激されるのを感じて、葛藤しつつその恍惚を求めているということだ。一線を超えてしまったら、朽ちさせないと愛せないような人間になってしまいそうで怖い。


特に花々は、自分の美しさを自覚している上に、プライドの高い印象なので、萎れていくのをジッと見つめ続けると、自分の加虐性があおられていくのがわかる。


カラカラに干涸らびたお前をくしゃりと握り潰してやろうか。


呟くと、花は最後の力をふり絞り「早く捨て去って」と無声音で乞うているのを聴く心地がする。




朽ちてゆく貴方を見たい一心で力なく乞う声を吸い尽く

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