食欲不振

夏から食欲がない。精神のバランスを崩してしまった故の食欲不振であると診断された。


食べ物を美味しそうだと思うこともなくなり、薬を飲むために胃の中になにかしら入れなくてはいけないという気持ちだけで、吐き気と闘いながら生きている。なんの面白みもない生活に飽き飽きしている。


吐き気止めをもらうため、内科で診察待ちをしているとき、隣に座っていたおじいさんふたりが、ラーメンの話を熱心にし始めた。


「ラーメンはみそがいちばんいい、コーンがたっぷり入っていればなおのこといい」

「みそぉ?? あんたわかってねぇな、醤油ラーメンがいちばんいいに決まってんだろ。細麺でシンプル、あれこそがラーメンだべ」

「そら俺たちの小せえ頃の話だんべに、いまはいろいろあっていいじゃねえのよ」

「ああまあとんこつラーメンなんかも俺は嫌いじゃねえやな」

「あんた細麺が好きなだけじゃねえか」


こちらのおじいさん特有の、ただの世間話が喧嘩に聞こえる勢いで話していたふたりだが、ケラケラと笑いだした。

わたしはホッとしながらも、先程から脳裏にくっきりと像を結んだ醤油ラーメンの姿に、吐き気を催さずにはいられなかった。……なんて不便な身体。



食べ物が喉を通らない人の横でラーメンを語る人々

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