食欲不振
夏から食欲がない。精神のバランスを崩してしまった故の食欲不振であると診断された。
食べ物を美味しそうだと思うこともなくなり、薬を飲むために胃の中になにかしら入れなくてはいけないという気持ちだけで、吐き気と闘いながら生きている。なんの面白みもない生活に飽き飽きしている。
吐き気止めをもらうため、内科で診察待ちをしているとき、隣に座っていたおじいさんふたりが、ラーメンの話を熱心にし始めた。
「ラーメンはみそがいちばんいい、コーンがたっぷり入っていればなおのこといい」
「みそぉ?? あんたわかってねぇな、醤油ラーメンがいちばんいいに決まってんだろ。細麺でシンプル、あれこそがラーメンだべ」
「そら俺たちの小せえ頃の話だんべに、いまはいろいろあっていいじゃねえのよ」
「ああまあとんこつラーメンなんかも俺は嫌いじゃねえやな」
「あんた細麺が好きなだけじゃねえか」
こちらのおじいさん特有の、ただの世間話が喧嘩に聞こえる勢いで話していたふたりだが、ケラケラと笑いだした。
わたしはホッとしながらも、先程から脳裏にくっきりと像を結んだ醤油ラーメンの姿に、吐き気を催さずにはいられなかった。……なんて不便な身体。
食べ物が喉を通らない人の横でラーメンを語る人々
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます