白昼夢

「娘さんを僕にください」


彼はわたしの母に頭を下げた。耳まで真っ赤だったことを昨日のことのように覚えている。母は喜びに顔をほころばせて何度も何度も頷いて、涙まで流していた。


ぴちゃん……


わたしは浴槽に浸かって天井から滴る雫を、その波紋を見つめている。何時間こうしているのだろう。湯はすっかりぬるくなって、身体は冷え始めている。


「ご主人が交通事故に遭われました」

「脳死状態です。延命措置をするかどうか、よく考えてきてください」


涙が出なかった。どこにでも一緒に行こうって、あの世に行くのも一緒だって、言ってたじゃない。……夢だったのだ。わたしが幸せになれるはずがないのだ。短い、夢だった。



君とならどこへだってと言ったのに短い夢を見ただけだったの

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