白昼夢
「娘さんを僕にください」
彼はわたしの母に頭を下げた。耳まで真っ赤だったことを昨日のことのように覚えている。母は喜びに顔をほころばせて何度も何度も頷いて、涙まで流していた。
ぴちゃん……
わたしは浴槽に浸かって天井から滴る雫を、その波紋を見つめている。何時間こうしているのだろう。湯はすっかりぬるくなって、身体は冷え始めている。
「ご主人が交通事故に遭われました」
「脳死状態です。延命措置をするかどうか、よく考えてきてください」
涙が出なかった。どこにでも一緒に行こうって、あの世に行くのも一緒だって、言ってたじゃない。……夢だったのだ。わたしが幸せになれるはずがないのだ。短い、夢だった。
君とならどこへだってと言ったのに短い夢を見ただけだったの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます