弁天池

その池には人魚が棲むという。神明宮の弁天池である。弁天さまの規模に不釣り合いなほど深く大きな池だ。

わたしは、いままさにその池に飛び込まんとしていた。

女学校のマドンナに告白もしていないのに衆人環視のもとで大声で振られたのである。

マドンナへのわたしの想いは学校では大きな噂になっていたらしい。


しのぶれど いろにでにけり わがこひは ものやおもふと ひとのとふまで……


百人一首の大会で、意味深に笑っていた同級生たちの顔を思い出す。

人魚よ、この池にいるというなら、わたしの命を奪うほど深く引きずりこんでおくれ。

大きな恥を背負うわたしは、重いはずだ。

冷たい水に沈みゆくわたしの胴に、白い腕が絡みつくのを夢想した。




水底に足をとられる夢を見て 君という名の非在の存在

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