突然死
「営業課の大河原さん、今朝方亡くなったんですって」
「うそ~!! 昨日元気だったじゃない!!」
経理の女の人たちの声をひそめた噂話が、パーテーション越しにこちらにも聞こえてくる。
大河原さんは、わたしの先輩だった。とくに基礎疾患もなかったはずで、奥さんから電話を受けたとき、質の悪いジョークかと思った。病院に呼ばれて、霊安室でご遺体と対面したとき、やっぱり信じられなかった。
昨日だって、取引先へ一緒に挨拶まわりに行って、お昼をご馳走してもらって、お返しに自販機でお茶をおごって……いつも通りの大河原さんだったのに。
とりあえず上司に報告するために出社したが、そのままになっている彼のデスクが、まだ体温を感じさせる。そこに座っている気がして「大河原さん、アドバイスいただきたいんですが、いまいいですか? 取引先へなんてご報告していいかわからないんですけど、メールの文面の書き方を教えていただきたくて」と、声をかけたくなる。ほんとうに突然で、どうしたらいいかわからない。
彼があの世へ歩いていく背中を、声も出せないまま見送っているみたいな心境だ。まだまだあなたから教わっていないことが多すぎるんです。せめてメールの文面を考えてから逝ってください。まだ信じられないわたしに、なにか声をかけてください。お願いだから……。
呼びなれた貴方の背中を見送って ただ立ち尽くす黄泉比良坂
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