第13話:陰キャ、友達ができる

 花音の異世界遭難から帰ってきて翌日の土曜日。優香は異世界対策委員会へと顔を出していた。


 報告書の作成だけなら家でもできたが、少し調べたいことがあったからだ。土曜日は委員会への用事と、前日で疲れた分の睡眠でほとんど終わった。


 日曜日はダラダラと本を読んだり、絵を描いたり、家の中だけで完結する趣味をこなして終わった。そもそも休日に家の外に行くことの方が珍しいが。


 来たる憂鬱な月曜日。学校に登校するとあれよあれよと囲まれる優香。大して仲の良いわけではないクラスメイトに話しかけられるとタジタジになる。


「雨宮さん、委員会の人だったの?!」

「ショットガン撃ってたよね?! あれってセミオートだったけどM4かな?!」

「異世界どんな感じだったの?!」


 ひっきりなしにおとなしめな部類のクラスメイトが囲んでくる。興味本位からミリオタまで様々いたが「下っ端なのであんまり仕事していません」「支給されたものを使ってるだけなので詳しくないです」「テレビとかで流れてる普通の感じの世界です」で流していた。実際にはもっとどもっていただが。


 やがて花音や彩も来るとそちらにも人が集まる。彩はともかく、花音にまで質問攻めするのは不謹慎ではないかと思う。山岳遭難者とか何かしらの被災者に感想を聞きにいくようなものだ。


 ただ本人は満更でもないようで、質問攻めに苦笑いしながらも答えていた。トラウマになっていないようなのでそこは安心した。


 彩に至っては山ができたように囲まれていた。元々クラスの中心人物であり、そもそも男子人気も女子人気も高い。性格もいいし、面倒見もいいし、おまけに可愛い。


 そんな人物が異世界に行っていた、あまつさえ救っていた、かっこいい魔法を使っていたとあらば、同性である女子からも黄色い声が聞こえてくるほどに盛り上がる。


「いや、まぁ落ち着いてよ。仕事してるのは去年からだし、昨日今日であたしが急に変わったわけじゃないでしょ。そんなに囃し立てなくて良いから」


 と彩が言っても盛り上がりが収まる気配はない。


「ほら、あんたたちはわからないかも知れないけど、あたしからしてみれば優香——雨宮の方が凄かったし、そんなに騒がれても困るんだけど」


 彩としては優香の前で優香を置いて注目されるのは恥ずかしいという想いが強かった。普段のクラスの立ち位置を考えたらそうなるのは当然だが、しかし実力的にも階級的にも優香が上だ。それなのに調子に乗ることはできない。だからクラスメイトの褒め言葉にも適当に頷くしかない。


——あんたら知らないでしょうけど、優香はあたしより階級上だし、ゴールドだからめちゃ偉いのよ。

——それに銃持つだけなら警察でも自衛隊でもいい訳だし、その上で持ってるってことは魔法とか使うよりよっぽどテクニカルで強い、それなりの理由があるんだからね……!


 彩は内心そう主張したくなるが、そこは黙っておく。委員会における他人の立ち位置を勝手にバラすのは御法度だ。後者に関してもたぶん誰も聞かないだろう。


 対して優香は彩へ注目を押し付ける気満々だった。「い、いえ……昨日は彩さん——雛森さんがいたからこそ助けられたのだと思いますよ」と返すとまた黄色い声が上がる。


 一瞬だけ彩は(こいつ余計なことを……)とイラついた表情を見せたが、優香にとっては目的が達成できたので成功だった。


 授業が始まってからは優香と彩は自然と一緒に行動した。移動教室では同じ机を囲んだし、それ以外の休み時間では彩が優香の席に自然と移動した。


 そこには花音も一緒だったし、ついでに若菜もいた。クラスメイト的には話題が全員まとめて振れるし、当人たちは一緒にいることで大変さを分担できる。自然と受け入れられていた。


 熱狂が落ち着いてきた昼休み。優香はようやく解放されると軽く心を躍らせながら学食へ行こうとした。


 妹は中学生なので弁当は必要ない。わざわざ自分のためだけに作ろうとは思わない優香なので、昼はいつも学食で済ませていた。


 そこに声をかけるのは花音だった。


「優香さん、お昼も一緒に食べませんか?」


 お嬢様らしい上品な笑顔を見せる花音。その手には弁当には大きい包みがあり、優香の机の上に置かれた。


「あ……私は学食なので……」

「はい、そうだと思ったので今日はお手伝いさんに頼んで優香さんの分も作ってもらいました! この間のお礼にもならないと思いますが、ぜひ食べてください!」


 純真度100%の笑顔で告げる花音。机の上に置かれた包みはよく見ると弁当箱ではなく重箱のようだった。


「え、あ、う……」


 突然の重箱に固まる優香。花音が包みを開くと漆で塗られ金箔で装飾された、上品そうな見た目のものが出てくる。


「うわ、やば……あたしたちもここでいーい?」


 とやってきたのは彩と若菜。言いながら周囲の空いてる椅子を引いて優香の机に向かって座る。二人は家から弁当を持ってきているようだ。


 重箱に加えて彩が座るというコンボを決められ、流石にまだ学食に行くとも言えなくなった優香は無言で自分の席に座る。


「…………はい、いただきます……」


 それを聞いた花音は「どうぞ!」と言いながら箸を渡してくる。これも高そうな箸だった。


「お二人もぜひ食べてください!」と彩と若菜にも勧める花音。重箱を広げるとそれだけで机の上が占領される大きさだった。

「らっきーさんきゅーかのっち」と言いながら若菜が遠慮なく食べ始めた。正直、女子4人でようやく食べれるかどうかな量だ。お手伝いさんもさぞ気合を入れたに違いない。


 そんなこともあって、四人は一緒に行動するようになった。連絡用のSNSグループも作った。優香にとっては仕事と親族以外で初めてのグループなのでちょっと緊張する。


 性格もバラバラなのに、不思議な縁だな、と優香は一人思った。

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