第7話:クラスメイトが異世界転移しました⑤

「あ〜……もしもし? こんにちは」


 彩は街道の前を往く冒険者一行に話しかける。そうすると一瞬全員がビクついた後、すぐに臨戦体制に入り剣や杖を抜いてきた。


「まま、待って、怪しいものじゃないわ」


(どう話しかけろって言うのよ〜)


 内心ひとりごちる彩。そこには優香の姿はなかった。


——私は先に村の北西側に周り込んでおきます。彩さんは前方の集団に話しかけて協力を仰いでください。たぶん、目的は同じです。


 それが優香の最初の指示。


 彩も初対面の異世界人に話しかけるのは勇気が必要だったが、適材適所だと飲み込んだ。流石に優香に任せるのは彩も怖かった。

 彩は正面から戦うことはできるが、見張りに見つからず村を回り込むなんて器用なことはできないので、その点でも適材適所だ。


「……君は?」


 中央に立ち、他より一歩前に出た青年が声をかけてきた。構えた剣は降ろしたが、鞘に仕舞う様子はない。リーダー格に見えるが、彩とそんなに変わらない十七歳前後だろう。


 その後ろには女性が二人。


 片方はローブを羽織り大きな三角帽を被っている。魔法使いだろうか。背が低く、女性と言うか少女という言葉を使った方がしっくりくる。こっちは彩より若いのは間違いない。十五歳前後だろう。


 もう片方は武器らしきものを持ってはいないが、拳を構えている。拳闘士とか、格闘家とか、そんなのだろう。こっちも若く、彩と変わらない年齢だろう。


 つまるところ、冒険者パーティ三人組だ。


 彩が元々いた異世界の基準で考えれば、経験が浅い冒険者集団と言ったところだろうか。どことなく、異世界で冒険を始めた時の初々しさを思い出す。


「ここからずっと遠い国から旅をしてきたリリベルって言うの。あなたたち、この先の村——の跡地に用があるんでしょ? あたしもあるの」


 知らない人に本名を言わない、異世界リテラシーの高い彩だった。


「どういう用だ?」

「一緒に旅してる友達がね、悪いのに捕まっちゃったの。で、それがそこの村に囚われてるっぽくてね。あなたたちも同じような理由で来たんじゃない?」


 彩がそう言うと、三人は小声でやりとりをし始めた。それが落ち着くと三人は警戒を解き、武器を収めて向き直った。


「手荒で悪かった。俺たちは冒険者パーティで、確かにあの村に用がある。俺たちも人助けだ。悪い魔物が廃村に巣食って、女性を攫ってるらしい。俺はアルベルトって言うんだ」


 若い青年が中心なのか、はたまた男だから率先して前に出ているのかは不明だが、とにかくアルベルトと名乗った彼を代表として見ることにした。


「あたしはエリザだ! よろしくな」

「……魔法使い。ティナ。よろしく」

「おーけーおーけー、アルベルト、エリザ、ティナ、よろしくね」


 彩はそう言うとアルベルトが差し出してきた手を握った。

 彩はそもそもコミュ力が高い上、同じような異世界を救って現代に帰ってきたのだ。こういうノリには慣れていた。体育会系を通り越した異世界冒険者系のノリだ。


「それじゃあさっそくあたしから情報共有なんだけど……」


 --⭐︎--


『それじゃあさっそくあたしから情報共有なんだけど……』


 優香が耳につけているヘッドセットからは彩の声が聞こえてきていた。別れる前に無線をつけっぱなしにしておくよう言っていたので、向こうの会話が垂れ流しで聞こえる。

 優香は現在、彩と別行動をして、一人で廃村の中に居た。


 彩たちの会話を聞きながら、事前に取り決めた作戦を頭の中でぼんやりと思い返す。


「現状で考えられる問題点は三つです。一つ目はこのまま前方の集団——冒険者とでも言っておきましょうか——を放っておくと状況が読めなくなること。それに水城さんを彼らに救助させるのはもっとまずいです」

「ま、どう考えても最初のイベントよね。これ」


 なぜか異世界転移をすると、現地に着いて今後の身の振り方を決定するような出来事イベントが起こる。この場合、目の前の冒険者が水城と一緒に世界を救うパーティを組むことになる、そんなイベントかもしれない。


「彼らか——あるいは彼女らに先んじて水城さんを確保する必要があります。二つ目の問題点は、おそらく捕まっている人は水城さんだけではありません」

「そんなことまでわかるの? まぁ、それはいいとしても……ちょっと面倒ね」


 救助対象が一人だけか、複数いるか、それだけで考えることは多くなるし、気にかけることも多くなる。


 究極的な話をするなら、囚われている現地の人間を救う必要はない。水城だけ拾って帰れば異世界対策委員会の仕事としては十分だ。


 しかしそこで水城が現地の人間も見捨てられない、助けようと言い出したら大変だ。


 むしろ異世界も救わなきゃいけないからこの世界に残ります! と言い始めるとさらに厄介になる。委員会の規則としては遭難者が現地に残ると希望している場合は本人の意思を尊重することになっている。


 あらゆる意味で倫理的に問題のある行為はその点以外にも問題がある。


 何より二人はそれぞれ一度は世界を救ったことのある英雄だ。元より放置する選択肢はない。


「三つ目は間も無く夜が来ることです」

「魔物相手だものね……何が起こるかわからないわ」


 一般的に魔物は夜行性だ。そして世界にも、魔物にも依るがゴブリンなんかは女性を弄ぶことが多い。夜ではない今ですら時間は惜しい。


 迅速に行動する必要があった。

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