第27話:ある日の委員会での出来事
「優香ちゃん。これ受付に届いてたんだって」
優香が自分のロッカールームで銃の整備をしていたとき、橋本がやってきたかと思えば一つの封筒を持ってきた。
「あ、ありがとうございます……すみませんが、そこに置いておいてください」
優香の手は煤や油で汚れていたのでそのまま受け取れない。手袋を脱げばいいが、脱ぐのも一苦労だ。
「はーい。置いとくわね」
橋本は優香が整備に使っている机の端に封筒を置くとさっさと出ていった。
優香はあまり雑談するタイプでもないし、性格的に一人にしておいたほうがいいとわかっているからだ。
受付から橋本を経由して届くとなると、急ぎのものではないだろうから特に手袋を外そうとは思わなかった。
例の
彩にも時たま手伝ってもらっていたが、とにかく疲れるものは疲れる。
使った銃の手入れを「まぁ……別のを使えばいいか……」と後回しにして銃をとっかえひっかえしてたので、整備しなきゃいけないものが溜まっている。
今日は土曜日で学校もないため、委員会に出向いて溜まった銃の整備をしていた。
持ち込んだタブレットで雑談配信のアーカイブを流しつつ、黙々と作業を行う。
ロッカールームは通常、複数のチームが合わせて利用する。彩はスノードロップ含め2チームが合同で使っていると言っていたし、おそらくそれが標準だろう。
対して優香は、通常のロッカールームと比べると小さめの部屋だが、それを一人で使っていた。
他の人だったら用意されている作業部屋で銃や剣、その他自前の武器の手入れをするが、優香は一人部屋なのをいいことにここで作業している。サンドグラスの特権だ。
黙々と作業を進めていると、コンコンとドアをノックされる。
「優香ちゃん、いるー?」
聞き慣れた声だ。
「いますよー」
流石にそのままでは応対できないので、使い捨ての手袋をゴミ箱に捨て、ドアのロックを解除する。
この部屋のロックを解除できるのは優香と橋本しかいないため、来客にはドアを開けに行く必要がある。
ドアの向こうには見知った顔——カノープス1こと
「久しぶり〜。悪いけど
「返してくれるならいいですよ」
「さんきゅ〜」
特に遠慮なく部屋に入ってくる。
委員会は必要であれば銃を支給してくれるが、ほとんどは自衛隊からのお下がりだ。
拳銃とライフルに関しては自衛隊からもらえるので許可も降りやすければ、弾や部品の補充も簡単だ。しかしそこから逸脱すると急に補充の難易度が上がる。
散弾銃や7.62ミリなんかは猟銃と同じなのでまだ手間は少ないが、50口径となると少し時間がかかるようになる。
そして50口径を委員会で使っているのは優香と友希乃しかいないため、こうして偶に融通しあうことがある。
もっとも、優香はあまり50口径を使わないのでほとんど貸す側になることが多いが。
「メンテ溜まってるね〜。そっちも忙しかったんだ」
「友希乃さんも、撃ち尽くすなんて珍しいですね」
「いやーほんと。撃ちすぎて肩のところ赤くなっちゃって」
ガンロッカーのロックを外し、50口径弾の箱をまとめて取り出して友希乃に手渡す。
「ありがと。田島さんと橋本さんには言っておくから」
「お願いします」
田島と言うとカノープスの担当官だ。優香も以前、世話になっていた。
異世界に絡んだ災害が増えるにつれ、警察も自衛隊もそれまでとは比較にならないほど発砲件数が増えたが、それでもまだ銃社会とは程遠い。
委員会は警察と自衛隊の子どものような存在なので、当然銃管理にも厳しい。後で辻褄を合わせるとは言え、弾薬の貸し借りがあるなら誰かが把握しておく必要がある。
「あ、朝日ちゃんの配信見てるんだ。本物すぐそこにいるから呼んでこようか?」
タブレットで流している雑談配信に気づいた友希乃が冗談めかして言う。
「たぶんお互い困ると思いますよ……」
「はは、それはそーだ。じゃ、弾ありがと。届いたら返しにくるから」
そう言うと友希乃は部屋から出ていった。
優香も銃のメンテナンスに戻ろうとしたところで、ちょうど作業の手が止まったので先ほどの封筒を手に取ってみる。
封筒には綺麗と可愛いの中間のような字で『サンドグラス様へ』と書かれている。
開けてみると中には数枚の紙が入っていた。
「これは……」
中にはCobotのアリサからのお礼の手紙と、ライブへの招待状が入っていた。
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