第32話:お嬢様②

 多くの店を回って、多くの服を買った。


 主に花音の買い物だったが、彩も気に入ったものがあればぼちぼち買っていたし、若菜も時たま買っていた。


 優香はあまり買うこともなかったが、彩に押し切られて数着買っていた。


 彩が「これ似合うんじゃない?」と勧めたもののほとんどを花音は購入する。


 買う方も買う方だが、勧める方も途中で止めるべきじゃないだろうか……?


 一番買い物量が少ない優香は花音の荷物持ちをしていた。


 おしゃれ番長彩のトータルコーディネートのおかげで優香の腕は埋まっていく。


「あ、あれ?」


 優香の腕に新たな買い物袋を追加しようとした花音が疑問の声を上げる。レジの決済で問題が起きたようだ。


「どうしたの?」

「あれ? えっと……アプリがエラーを出すようになってしまって……」


 彩が一緒になって確認するも解決しない。よくわからないため、優香が立て替えることにした。花音は現金を持ち歩ていなかった。


「すみません……」

「大したことじゃないので……」


 控えめなやりとりをした後、あーだこーだと確認していって原因がわかった。


「アプリの支払いがカードに紐づいているのですが、そのカードが普段と違う買い物をしたとかで不正利用だと検知されたみたいです……」

「そんなことある?」

「元々セキュリティに厳しいところなので……。それで、実店舗に行かないと解除できないみたいなんです」


 要はお嬢様が庶民的な買い物をしたせいで不正利用だと見なされたらしい。


 それにしてもオンラインで解除できないとは厳しいセキュリティだ。


 幸いにも、支店は近くにあるようだったが、申し訳ないのでこれくらいなら一人で行きますと花音が言い出した。


「でもあんた、そもそもが私たちと一緒だからってことでパパに許されてるんじゃないの」

「それはそうですが……」


 しかしみんなで一緒に行くのは申し訳ないと渋る花音。気持ちはわかる優香だ。


「じゃあ、私が一緒に行きましょうか?」


 優香も少し人混みから離れたい気分ではあった。そしてそこに若菜が続く。


「別れるならわーちゃん、ちょっと音楽店行きたい」


 どうしてかと彩が聞くと、イヤホンかヘッドホンを買うために視聴しに行きたいとのことだった。


 一緒に行くとみんな退屈するだろうからと今日は行くつもりがなかったとか。彩は私なら退屈させていいのかと言いつつ、それぞれで別行動することになった。


「付き合わせてしまいすみません……」

「いえ、ちょうどちょっと休憩したかったですし……」


 そういうやりとりをしつつm移動した先は銀行だった。どうやら銀行が提供するカードだったらしい。


 中で待たせてもらおうと、一緒に中に入ると真っ直ぐにカウンターへ向かう花音。


 整理券が要ることを伝えると、顔を少し赤らめていた。


「実は一人で銀行に来るのが初めてでして……」


 今までの流れからすると『でしょうね』という感じだが、言わないでおいた。


 やがて花音がカウンターに呼ばれる。いくらか話すうちに慌てて上司っぽい人が現れると、あとは心配要らないなと優香は気を緩ませる。


 疲れから若干目を閉じてぼーっとする。元々誰かと一緒に過ごすのにエネルギーを使うタイプだし、人混みなら尚更だ。


 一人で過ごしたい、とまでは言わないし、花音たちと一緒に過ごすのは楽しい。だけどエネルギーを使う。


 優香はくたくたに疲れていたので、うとうとするまでとは言わずとも、ぼーっとしていた。


 だから異変に気づかなかった。


 突然けたたましいベルの音が鳴る。びっくりして全身が跳ねる優香。


 シャッターが閉まっていく。


 あたりを見ると顔面蒼白の女性行員がカウンター越しに男から何かを突きつけられている。


 けたたましいベルの中、さらにその周囲の男たちが慌てたようにカバンから何かを取り出す。


「余計なマネしやがって……!」

「おい! お前ら動くんじゃねえ!」


 銃を振り回し周囲を威圧する男たち。


 男たちは四人。銀行強盗だった。

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