第45話:ドラゴン②
降下地点はほぼ全線指揮所の側だった。簡易的なテントとゴテゴテした装備のトラックが並んでいて、その周りは避難誘導で混沌としている。
先に降り立った友希乃たちが手を振ってこちらだと示している。
優香がそろそろとテントの中に入るのに彩も続く。リーダーがオドオドしていると本当に続いて入っていいのか戸惑うのでもっと堂々としてほしい彩だった。
中では一帯の大きな地図が設置されており、マグネットが地図の上のあちこちに置かれている。
自衛隊の参謀から話を聞くと、状況はかなり悪いようだった。巡航ミサイルを撃つにも市街地に近すぎるし、避難も完了していない。
理想は委員会がドラゴンを討伐することだが、現状はいくつかの部隊がドラゴンへの道を切り開いている途中。多数のワイバーンが壁になっているようだ。
しかもなぜか広域でジャミングのような電波障害が発生しているため、前線の詳しい状況は不明というどうしようもない状況だ。
前から異世界と通ずるゲート付近はかなりの電磁波が出ているという現象はあったが、今度のドラゴンはそれ自体が何か特異点のようなものになっていて、強い電磁波を発しているのかもしれない。
というわけで優香たちに下された命令は、とりあえずわかっている救助要請が出ているチームへの応援に行き、かつ高度な柔軟性を維持しながら臨機応変な対処に期待するというものだった。
テントの外に出た彩が今までの話を端的に要約した。
「要するに、いつも通りって感じかしら」
「残念ながら、そんな感じです……」
彩の言葉に優香が同意する。
何があるかわからないからできることをしろ、というのは異世界に行く時と変わらない。
ゲートの向こうに何があるのかわからないように、今回も電波障害でよくわからない場所に突っ込むだけだ。
「で、どう見る優香ちゃん。うちは好きに使って構わないわよ」
「ちょ、ちょっとお待ちください……」
友希乃が優香にそう言うと、優香はなるべく高いところに登って景色を眺めた。
優香にとって異世界に向かうのと違う点が一つある。ゲートの向こう側の未来を視ることはできないが、今の問題はゲートの向かい側ではない点だ。
優香の目が青く光る。どこでもないところを見ているようでいて、その目には未来が視えていた。
「見てきました。みなさん、地図を」
優香の合図で全員が委員会支給の端末を取り出す。優香が素早く作戦区域の地図を共有した。
「3つに分かれましょう。私と咲希さん。友希乃さんとあさひさん。そして彩さん」
「またあたし一人なの?!」
思わず叫んでしまう彩。
「すみません、これがたぶん一番良いんです……」
「まぁいいわよ……あんたとあたしって仲悪いからね」
彩は冗談まじりに言ったつもりだったが、間に受けたのか衝撃を受けたような顔をする優香。「冗談よ、冗談」とフォローする彩であった。
「えぇっと……私と咲希さんでグリッド4Bへ。彩さんはグリッド8Gの地点へ行って、そのあとグリッド1Dか2Eで合流しましょう。友希乃さんたちは高所をとって周囲の援護を。それ以上は任せます」
それぞれが向かう地点は先ほど救難要請が出ていると言われた場所だった。
方角で言うなら、ドラゴンを0時とした時に10時の方向に行くのが優香と咲希。2時の方角に行くのが彩。そしてドラゴンの右手前か左手前で合流しようと言っている。
「ん……文字通り露払いってことかしら。いいけど……優香ちゃんの今回の作戦、最低目標と最高目標はどこか聞いておきたいわ」
友希乃はリーダーらしく目標の確認を忘れない。
電波障害で連絡が取れなくなることが予想されるため、撤退ラインがどこかを共有しておく必要がある。
「本当に最低限なら、全体の目標と同じです。この地域にいる全員の避難をなるべく早く終わらせて、空爆によるドラゴンの討伐を期待します」
「でも、そうじゃないんでしょう?」
友希乃は面白がるような態度だ。
「はい。目標はドラゴンの討伐です」
「大きくでたね〜」
その一言に、あさひはニヤニヤと笑い出し、友希乃もニヤリと笑う。無表情な咲希も無言で頷いていた。
彩はというと、どんな顔をすればいいかわからなかった。優香ができると言えばできる。これまではそうだったが、この混乱を本当に収められるかと言われると流石に少しは疑問が湧く。結果、きょとんとするだけだった。
「じゃあドラゴン退治の英雄譚にカノープスは喜んで一枚噛ませてもらうわ」
優香が彩を見る。
「やってやろうじゃない。掛け持ちでもサンドグラスよ、私は」
視線を合わせて頷きあう優香と彩。
「じゃあ、各自移動しましょう。各自の行動は各自に任せます。彩さん」
「ん?」
「治癒魔法の使用は任せます。ただ、魔力が空になることは避けてください」
「わかったわ」
現状ではあさひと友希乃に一回ずつ治癒魔法を使った。
治癒魔法は四回使うとちょうど魔力切れを起こす。ここまで移動する間に休めたから二回使っても空になることはないだろうが、それでもギリギリだ。使えても二回だが、一回に留めておいた方がいいだろう。
「友希乃さんたちの動きは任せます」
「信頼厚くて嬉しいね」
友希乃たちには丸投げしたが、しかし友希乃は委員会でもプラチナのランクを持つ。あれこれ細かく命令する必要もないだろう。
今更だが、友希乃たちカノープスが優香のことを全面的に信じていることに気づく彩。
「彩さん、たぶん、今回は彩さんが鍵になると思っています」
そう言われても、彩は流石にそこまで信じることはできなかったが。
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