第41話:撤退戦
「あれ、なんですか?」
彩は空を漂う光を見て質問した。
「
そういうと友希乃も同じように照明弾を撃ち返した。了解の意味だろうか。
優香はガンケースを二つ持ってきていたが、どっちも銃だと思う。シリウスとカノープスにしか通じない連絡手段をわざわざ自分で持っているとは思えない。シリウスに借りたのだろう。
照明弾は確かに無線で届かない距離でのやり取りではアナログながらも確実そうだ。
「あさひ、足はどう?」
「んー……よし、大丈夫。歩けるよ」
あさひは足をぶらぶらと動かし、痛みや動かしづらさがないことを確認した。噛み跡も消えているし大丈夫そうだ。
「よし、じゃあ降りよっか。彩ちゃんは飛び降りれる?」
「いえ、できないです」
彩が使える魔法に、空を飛んだり地面を駆けたりと言った移動系のものはない。
「そっか、じゃあ咲希、一緒に頼んだわよ」
「ん」
「え? うわっ」
咲希は友希乃と彩に対して何かしら魔法を使い、宙に浮かべる。そしてすーっと三人まとめて木を降りる。
あさひは三人の横を落ちていくように降りていく。地面に着く前に一度ふわっと減速したのが見えたので、何かしたサイコキネシスのような力を使ったのだろう。
咲希を含む三人も続いて地面に着地する。
友希乃が能力を使った移動に弱く、咲希はおそらく高速移動ができない程度の移動魔法があるのだろう。
あさひは確か、自己強化と念力に優れたパワー型の超能力者だったと記憶している。
戦闘面では友希乃が透視能力で、咲希は氷系の魔法使いだったはずだ。
委員会の人間は能力は隠すべきだとされているが、カノープスはテレビに出る関係で能力が公にされてしまっている。広報と秘匿主義の両立は難しい。
「よし……じゃ、ここからは全員、覚悟決めて移動するわよ。接敵するまでは早足、それ以降は駆け足。隊列はいつも通り。彩ちゃんは私の前ね。交戦は避けたいから追いつかれたら退かせることを優先。それ以上は各自の判断に任せるわ」
友希乃が簡潔に指示をする。優香は行き当たりばったりでなんとかなるからと大した指示をしないが、これが普通だ。
隊列はどんなものかと思ったが、前方に機動力も打撃力もあるあさひ、その後ろに咲希、そして足が遅く武器が大きい友希乃が続いた。
彩は自然と友希乃と咲希の間に入ることができた。咲希はふわふわ浮いて移動してるのでまぁまぁ速いし、逆に友希乃は武器がとても大きくて走りづらそうだ。
「来たわね……!」
移動し始めて間もなく魔狼が姿を見せた。前にいるあさひと咲希に飛びかかる。
「このっ!」
「っ!」
最初に襲いかかってきたものはあさひが蹴飛ばし、後ろに続いたもう一匹は咲希が氷の塊をぶつけて飛ばしていた。
ただ、いずれも目立ったダメージはなく、すぐに体勢を整えて起きあがろうとする。速い上に硬いなんて、なんて強敵だ。
彩は前よりも後ろに気を配る。この中で最も相性が悪そうなのが友希乃で、最も相性が良さそうなのが彩だ。
あさひと咲希はダメージを通せずとも自衛はできる。友希乃の大きな銃は明らかに近距離戦に向いていない。
ただ友希乃も、伊達に修羅場を潜ってはいない。カノープスを束ねるリーダーで、現場で最上位のプラチナだ。手にした大口径の対物狙撃銃を手足のように振り回し、走りながら魔狼に撃った。
彩が今まで聴いた銃声で、最も鈍く大きな音が響いた。
「ぁ〜っ! 走りながら撃つなんて、今までで一番肩が痛いわ……!」
言いながらも命中させているので恐ろしい腕だ。
撃たれた魔狼も目に見えた傷は入っていないが、ごろごろと地面を転がっていった。弾は貫通していないが、物理的な衝撃は入っている。
新たな魔狼が前方から4匹。今度は彩が魔法を唱え、槍を放つ。
彩の目も少しは慣れてきて、今度は2匹に当てることができた。血が出ることはないが、今度もこけるように倒れた狼は起き上がる気配がない。やはり魔力的な攻撃に弱いようだ。
しかし次々と現れる魔狼。どこから現れるかも、どれだけいるのかも掴めない。
確かにカノープスが苦戦するのも無理はないと彩は思った。
全員が物理攻撃に特化している。しかも二人は魔法じゃなく超能力が主体で、なおさら魔物に強くない。魔法が使える咲希にしても直接的な魔力攻撃ではなく、氷という物理を操る魔法だ。
ただ、彩という魔法使いが現れたことで希望が見えてきた。このままならなんとか逃げれるかも。
そう全員が思ったときだった。
無理な射撃で、友希乃がバランスを崩したのは。
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