第3話:クラスメイトが異世界転移しました①

 優香はそれから、次々とゴブリンを撃っていった。


 見る人が見れば、彼女の射撃技術が映画で見るようなものだったとわかっただろう。弾薬を込める手つき。照準を合わせるまでの滑らかな動き。引き金を引く躊躇の無さ。


 そんな優香の目を引く動きも、目を引かれた者はいなかった。難を逃れた人や野次馬が遠くから眺めるのはもっぱら超常現象たる彩の魔法。光の槍を飛ばすギャルで、異世界で讃えられた聖女の姿だった。


 目にみえるゴブリンを掃討した優香は、最初にゴブリンが溢れてきた路地裏を歩いていた。

 目当てのものはすぐ見つかる。


 キラキラと光り輝く異世界へ通ずるゲート。路地裏の汚さとは対照的に幻想的な光を放っていた。


 優香が無線で橋本を呼ぶとすぐにやってきた。彩も一緒だったので、うまいこと合流したのだろう。


 そしてさらに見慣れない初老の男性もいた。サラリーマンのものとは違う、上品なスーツを身にまとう姿からは紳士然とした雰囲気が感じられる。


「そ、そちらの方は……?」


 現場に突然現れた関係者じゃないであろう見知らぬ人間におどおどする優香。予想に反して、答えたのは橋本ではなく彩だった。


「水城さんの家の人だって。こちら、桐堂さん」


 彩が身振りも交えてそう言うと、男性は恭しく礼をした。


「水城家に仕えさせていただいております、|桐堂≪とうどう≫と申します。お嬢様がお世話になっております。不躾でございますが、お嬢様をお見かけになられなかったでしょうか?」


 うわ〜、執事とかいるところにはいるんだな〜と優香が考えるのも束の間。桐堂は言葉を続けた。


「率直に申しますと、お嬢様がカラオケに行くとのことで、不作法を承知でせめてお店の中に入るまではと見守らせていただいていたのですが……気づいたらお嬢様がどこにもおられなかったのです。電話も不通でして……」

「え……」


 彩が驚いたように、小さく声を出す。それはいつの間にか尾けられていたことへの驚愕か、もしくはまとめ役として一人見失ってたことへの申し訳なさなのか。


 橋本が口を開いた。


「優香ちゃん、なんか知ってる?」

「いえ……実は私、その水城さんを探しに来たんです」

「あぁー……」


 その一言で橋本は察したように頭に手を当てた。未来が読める優香が人を探していること。優香が突然銃を持って来いと街中に呼び出したこと。現れたゴブリンに、目の前のゲート。


 一瞬だけ、優香と橋本の視線が交錯し、橋本が口を開いた。


「水城花音さんは状況を鑑みるに今回の異世界事案に巻き込まれた可能性が高いと言えます。ゲートの中に巻き込まれた可能性さえあります。こちらにいるせよ、向こうにいるにせよ、私たち異世界対策委員会が責任を持って捜索いたしますので、ここはこちらが預からせて頂きます」

「な、なんと……お嬢様が、異世界に……」


 執事の桐堂は驚きで目を大きく開いた。


「まだ、向こうの世界にいると決まったわけではありません。こちらの世界でどこかに避難している可能性もありますし、両方の可能性を考慮して捜索いたしますので」


 優香としても、そして橋本さえも恐らく水城はゲートの向こうに行ったと考えているが、この場でそれを言う必要はない。


「橋本さん、車の鍵を……」


 優香が車の鍵を受け取り、路地裏から出ようとすると、彩がついてきた。


「どうするの?」

「わ、私はゲートに潜ります。荷物を取ってきます……」


 彩は歩調を合わせるように少し足を早めた。


「ちょちょちょ、ちょっと、あたし抜きで話を進めないでよね。ここであたしを置いて行く気? あんた一人には行かせないからね」


 内心、あわよくば置いて行く気満々だった優香だ。ワンチャン別行動できないかなと思ったが、当の彩は着いて行く気満々らしい。


「わかりました……では準備して、潜りましょう……」

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