第5話 魔力異常
「あっ、同接1万こえてる……」
:おめでとーでござる!
:うおおおおおお!
:おおおおおおお!
:いええええええええ!
:ちくわ大明神
:誰だ今の
:企業所属とか大手クラン所属とかならそこそこある
:そのそこそこが素晴らしく狭き門なんだけどなあ
:魔術Gに絡まれたら、そら話題になる
:切り抜きから来ました! うお、なんだこの衣装、えっろ……
:来てみたらこの痴女服だからな、チャンネル登録登録
:おまえらさぁ……まあ登録するんですけど
気が付けば同接が1万に達していた。初配信でこれはかなりの快挙であろう。その大半は二宮金三郎関連からこちらに来たのだろう。それに加えて美少女であるわたしの下着姿(下着姿ではない)を見に来ている者たちばかりだ。
なんにせよ盛り上がるのは良き事である。ここから下層まで行ってもっと同接伸ばして、チャンネル登録者数も伸ばすことが目的だ。
どんなものでもバズれば良いのである。
親友:ほんと、ごめんなさい
そんな中、謝っている親友は本当に良いやつだとしみじみ思う。
わたしとしてはこうなること承知で着ているのだから、気にしないのに本当に真面目だ。
「みんな見てくれてありがとー。まあ、あのおじいさんのおかげだろうけど、来たことを後悔させないようにがんばるよ。とりあえず下層目指していくね!」
魔力循環による身体強化を少し強めつつ、オートモードの魔術を五つから七つに変更して駆ける。
中層域のモンスターたちもわたしはどうにかできるようだった。朗報だ。しかし、油断はしない。
森を疾走しているとモンスターの群れの気配に気が付いたので立ち止まる。
そこにいたのは緑色の矮躯。
「ゴブリンの群れですね」
;群れはマズイ
:ゴブリンの前に下着姿はマズイ
:ゴブリンクイーンのせいだからな
:マジで余計なこと覚えさせたよな、ゴブリンクイーン
:ゴブリンは苦手でござるなぁ
ゴブリンクイーンとはとある探索者のあだ名である。
配信でいうことすら憚れる最悪のことをやらかしてゴブリンというモンスターにヤバイことを覚え込ませたのである。
それ以降、ゴブリンを見たらとにかく駆除が鉄板となっている。特に女探索者を要するパーティーでは。
1匹見たら30匹はいると思え、それがゴブリンである。
「グゲゲゲ!」
ゴブリンの方もわたしに気が付いたようだ。
下卑た笑いを浮かべながら、錆びた武器や尖った粗末な棒などを振ってこちらに向かって来ている。
「とりあえず、全滅させちゃいますね」
中層の森を燃やすのは危ないため、わたしは風の魔術
燃やしてダメなら切り裂いてしまえ。
さらにわたしは、群れに向かって突っ込んでいく。
:ええええええ!?
:何してんの!?
:まさか、おまえもなのか
:知っているのか雷電!
:いや、知らん、何してんの怖い
:知らんのかい!
親友:逃げてください!!
「ゲゲゲゲ!」
ただ一撃で倒してしまうというのも芸がない。
わたしがどれだけできるのかを見せていかなければならないだろう。そう、わたしは視聴者の認識では今日ダンジョン配信を始めたばかりのEランク探索者。
初心者なのである。
その初心者がゴブリンの群れに突っ込み、華麗にすべての攻撃を避けて1匹1匹始末したらどうだろうか。
たぶんかなり盛り上がるはずだ。
そんなことを考えながら、わたしはゴブリンの群れと接敵する。
起動した風刃の設定を両手の振りと同期。
先頭のゴブリンが錆びた短剣を振り下ろすのをダンスでも踊っているかのように華麗に回避(自己評価)。
すれ違いざまに腕を振るい、指先から放たれた風刃がゴブリンの首を両断する。
「まずは1」
ゴブリンたちは仲間が死んだのもお構いなしにわたしを取り囲んでくる。
突き出される粗末な槍の一撃を槍を掴むことで止める。その隙とばかりに背後からゴブリンたちが飛び掛かってきたので、風刃で迎撃。
止めていた槍ごとゴブリンを持ち上げて振り回し、距離を詰めようとした左右のゴブリンをけん制しつつ、風刃を打ち込む。
:やべええええ!?
:魔術師の動きか、これが?
:初めてダンジョン配信をしている探索者の姿か、これが……?
:魔術師様の戦い方じゃない……
:魔術師の誉れはどうした誉れは
:誉れは浜で死ん……でねぇな? ヨシ!
:そもそも魔術師トップが爆発魔術でカッとんでくるから今更な気も
:魔術Gでも群れには突っ込まないだろ
:知らないのか、魔術Gは群れに突っ込んで自爆する
:えぇ……
「はい、最後!」
そして、群れになっていたゴブリン最後の1匹の首を飛ばして戦闘終了。
「うん、いい運動になったかな」
中層に入ったばかりのゴブリンでは、身体強化だけでも渡り合えそうだ。
そもそもわたしの目指すところはあの日の剣なのだから、この程度できなくては話にならないというもの。
「さあ、どんどん行こう」
わたしは中層を先へ先へと進んでいく。それでも上層よりかは進行速度は遅くなっている。
渋谷ダンジョンの中層もまた多くの探索者により開拓がされてはいるが、上層と違って正確な地図は半分ほどしか公開されていない。
中層ともなれば、上層とは違い主要な資源が取得できるようになり、狩場としても効率が良くなってくるため、探索者はあまり公開したがらない。
だから身体強化で駆け回りながらゲートを探し下層を目指して進んでいく。
渋谷ダンジョンの中層は50階層まで続く。
30階層まで来たところで、魔力異常をこの眼がとらえた。
「ん、これは……」
:おい、ヤバイ渋谷ダンジョンで魔力異常が観測されたって!
:おいいぃ、マジじゃねーか!
:どこでござる?
:中層30階層!
:ここじゃねーか!
:もってんなぁ……
:魔術G襲来に魔力異常とか、配信者としては強運
:探索者としては不運すぎてなんもいえねぇ
魔力異常は、ダンジョンで起こる異変の1つだ。
大抵、階層に見合わない強大なモンスターの出現や地形変動などの直前に発生する。
多くの場合は強大なモンスターの出現であり、大抵の場合イレギュラーモンスターと呼ばれる。
中層で起こる魔力異常でイレギュラーモンスターが出るならば、最低でも下層のモンスターであることは確定だ。
コメント欄は退避推奨である。命あっての物種という奴だ。
しかし、配信者としてバズろうとしている人間が、こんなところで引いて良いものだろうか。いいやよくない。
「じゃあ、イレギュラーモンスター討伐に行きましょう」
:えええええええ!?
:ちょ、マジでヤバイんだって!
:だれか、この新人を止めろ
:止められねえよ!
:助けて、魔術G-! この子、イレギュラーモンスターに突撃かましてますー!
:ワハハハハハハ! いいぞ! それでこそだ!
:ダメだこのジジイ
:魔術師の未来がぁ
:配信見てんじゃねぇーよ!!
わたしはコメントの静止を振りきって魔力異常の起きている場所へ向かう。わたしの目をもってすればどこで起きているかなど明確にわかる。
森の中で開けた場所に空間のひずみがある。
魔力も最大限膨れ上がり、周囲の魔力圧が増加し、深層環境を構築していることがわかった。
「深層モンスター確定ですね、何が出てくるか楽しみですね」
:きっしょ、なんでわかんだよ
:感覚でわかる的なことを聞いたが……
:普通わからんでござるよ
:深層モンスターなら逃げろよぉぉぉぉ!
そんなことを言ってる間にガラスが割れるような音とともに空間のひずみが割れて、そこからモンスターが現れていた。
わたしはその姿をみた瞬間、相性の悪さを悟った。
「あ、まずい」
「GRAAAAAAAA!!」
咆哮だけで周囲の森の木々が消し飛んだ。わたしは魔力で身体を蓋ったから問題なかったが、それだけでもこのモンスターがヤバイということが伝わる。
そこにいたのは翼をもつ巨大な生き物だ。
輝く鱗が全身を覆い、鋭い瞳に黄金を湛えている。
白亜の牙と爪は、人を殺す形をして殺意の高さを物語る。
その名を知らぬ者は誰もいない。
ダンジョンにおいて出会えば須らく死を覚悟するモンスター。
ファンタジーの代名詞と言ってもよい存在。
その名は――。
「ドラゴン……」
魔術に耐性を持つ最強最悪の深層モンスターだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます