第18話 ござる侍

「やー、迎えに来たでござるよー!」


 救援がやってきた。それは着物を着て、刀を腰に差した女性だった。

 一瞬カメラに映ってしまったので慌てて隠す。


 :おっ、ござるきたー

 :本当に来たのか、ござる!

 :待って!? 女じゃね!?

 :女?

 :女だああああ!?

 :ござる、女だったのぉおおお!?

 :最下層探索者でござる口調の女侍? 聞き覚えがないな?

 :配信者じゃなけりゃ情報出てこないしな

 :ああ、隠されちゃった

 :仕方ない。一般の人だ

 :一般人(最下層探索者ござる女侍)

 :一般人のハードルが上がるなぁ


「ああ、カメラに映してもらっても大丈夫でござるよ、るみるみ。拙者も配信に出たいでござる」

「じゃあ、遠慮なく」


 :うむ……美人だ

 :美人さんだああああああああ!

 :こってこての侍だ……

 :黒髪ポニテだあああ!

 :眼鏡ですか、良いですね……?

 :ござる侍、キャラが立ってますね

 :そんな軽装で大丈夫か

 :侍系は軽装なんだっけ

 :刀の振りを早くするためにあまり着こまないらしいよ

 :甲冑着てるのもいるけど重たいからな

 :上位探索者だとそうでもないけど、そこまで行くまでがしんどいらしいってwikiに書いてあるぜ


「というわけで改めて拙者、えー彰常伊久美あきつねいくみと申す。Aランク探索者でござる」

「ありがとうございます。るみるみこと元枝瑠美です」

「お迎え助かりますわ! わたくしは完璧で究極のメイドお嬢様マリアンヌですわ!」


 :お前は田中であろう

 :嘘つくな田中真理だろ

 :お嬢、ここで偽名はちょっと

 :マリアンヌって名乗ってもいいけど、一応本名も名乗っておこうよ

 :もうみんな知ってるし

 :初見さん以外はわかってるよ

 :なんなら初見でもわかってるぞ

 

「ちょっと、皆様方! わたくし田中などという名前ではございませんわ!!!」


 :チャンネル名を見ようよ

 :自分のチャンネル名

 :つチャンネル名


「違いますわああああ!」

「はっはっは。良い反応でござるなー」

「ああいう人なんですねぇ」

「とりあえず少し休めて元気が出たようで何よりでござる。るみるみは右腕骨折でござるか?」

「まあ、そんなところですね。あとは全身に細かい傷ってところです。メイドお嬢様の方は、あらかた応急処置しておきましたけど、早く病院に連れて行った方が良いと思います」


 配信を切って回復魔術を使っても良かったのだけれど、配信をしているから仕方ない。

 回復魔術は話題の種だ。これからの配信のネタとして温存させていただきたい。


 それに回復魔術で回復するより自然に回復させた方が、より強くなるのが探索者という生き物だ。ここで成長の芽を摘んでしまうのはあまり勿体ない。

 特に魔力圧による破裂から運よく生き残ったのだ。自然回復させれば深界でも問題なく行動できる魔力圧への耐性が手に入る。


 回復魔術を使って即時回復させてしまうと、そこらへんの経験がパーになってしまうため我慢しなければならないのだ。

 やるなら死なないギリギリまで回復させてからの自然治癒だ。そうすることで魔力圧への耐性を上げることができる。

 ちなみに効果のほどは実証済み。わたしが自らやって、天岩戸でもやったからどのくらいの加減かはわかっている。


 メイドお嬢様もそのギリギリまで治療はしているので、そこは安心してもらいたい。目覚めが悪くなるところだけは完全回避だ。


「では、拙者が露払いをするでござるよ。るみるみはメイドお嬢様を背負ってついてきてくれれば良いでござる」

「わたくし歩けますわよ!」

「これから50階層上がらねばならぬのでな」

「わたしは別に大丈夫なので」

「るみるみ様がそういうのなら……」


 というわけで、彰常さんを先頭にわたしたちはダンジョンから帰還するための行軍を開始する。

 この侍、結構強いようだ。

 Aランク探索者は、常識的な探索者が至れる最高地点と言われている。Sランクは常識外、EXとなると規格外だから別の話となる。


 出てくるモンスターを鎧袖一触、一刀の下に切り伏せている。


「中層は基本通り過ぎるだけでござるからなー。楽でいいでござるなー」


 :これが最下層探索者の動きか……

 :見えねえ……

 :速すぎんだろ

 :気がついたらモンスターが真っ二つになっている……

 :安心感が半端ねぇ……

 :最下層探索者で配信してる奴いるっけ

 :いない

 :いないな

 :配信しながら最下層や深層とか自殺行為だからな

 :なお、博多の剣鬼

 :例外を持ってくるな、例外を!

 :頭薩摩の妖精は、頭薩摩だからな……

 :配信しながら深界まで行って余裕で戦闘して帰ってくるからな

 :EX唯一の配信者、ありがたく情報を見せてもらってます

 :大人気配信者様ですよ


「流石ですね、これがAランク探索者」

「はっはっは。拙者などまだまだ未熟でござるよ。剣鬼には勝てんし。上には上がおるでござるからなぁ」


 :剣鬼は別よ……

 :EX3人のうちの1人だもんな


「ああ、織野華さん! わたし、大ファンで配信しようとしたきっかけですよ。目標です」

「ほほう。るみるみの目標は剣鬼でござったか」


 :るみるみの目標

 :なるほど頭薩摩の妖精を見て配信を始めたのか

 :アレを見て配信を始められる胆力がすげえよ

 :その結果が、スケスケビキニアーマーってどういうことだ

 :頭がおかしいってことだ

 :もはやアレはなんか人間じゃないもんな

 :人間がやっていい動きじゃないのよ 

 :なんで1度しか剣を振っていないのに、斬撃が10個近くでるんですか

 :魔術も斬るし、なんならこの前の配信で海を割ってたぞ

 :情報が古いな、最新はダンジョンギミックを面倒だからと全部ぶっ壊してた

 :ああ、あの博多の無駄に頭使う奴か……

 :学者が束になって後で検証しても解けないから、ぶっ壊すのは正解なんだよな、アレ

 :頭薩摩だから、頭使う技は頭突きしかないんだ

 :でも、納得、そりゃるみるみがイレギュラー相手に突っ込むわけだわ

 :華ちゃんすーぐイレギュラーに突っ込むもんな

 :あっ、そういうこと!?

 :だから、頭薩摩を参考にするなとあれほど

 :るみるみェ……


「ちょっと、酷くない?」


 わたしはただあの日、わたしを殺した剣を修得したくて真似をしているだけなのだ。

 それでわたしまで頭おかしいと言われては困る。

 頭おかしいのは、涼しい顔して深界まで行っている織野華の方だ。わたしを殺した勇者様は本当にすごい。

 おかげでまーったく真似できていないのだから。


 :ひどくない 

 :残当

 :そりゃ(頭薩摩の妖精の真似したら)そうよ(頭おかしいと言われても仕方ない)

 :安心するんだ、Bランク以上の探索者はみんな頭おかしい

 :Bランクで1番まともなのはリーマンだから

 :兼業リーマンな

 :あいつはなんで兼業なのにBランクなんだ

 :武器なんてビジネス鞄だからな

 :やっぱ頭おかしくない????

 :まともだって見てみろよ、メイドお嬢様をよぉ!

 :スナイパーライフルでぶん殴ってんだぞ

 :るみるみも見てみろよ

 :無詠唱で魔術使うし、新魔術出してくるし、そこらの剣士寄りも動けるし

 :何より恰好が痴女

 :そこは頭おかしいポイントじゃなくて、最高にエロいポイントだ

 :まあ、でも流石に深層に行くならそろそろまともな防具を着てほしいところだ

 親友:頑張って作ります!

 :親友ちゃん作ること確定なんだ、買わないんだ

 :てぇてぇ……(尊死)


 世の中おかしい人がいるものだ。わたしは違う。断じて違う。ただわたしを殺したあの日の剣を目指してるだけでおかしくない。ちゃんと計算でやってるから大丈夫。

 何が大丈夫なのかわからないが、それから3時間かけて30階層まで上がってきた。


「少し休憩にするでござる」

「はーい」

「わかりましたわ」

「ところでるみるみ。拙者、我慢できないので叫んで良いでござるか?」

「良いですど」


 彰常さんはキリっとした顔を作る。


「るみるみかわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいでござるうううううううううううううううううう!」


 :うわ、でけえ声!?

 :うわあああ、突然叫ぶな!

 :鼓膜ないなった

 :びっくりしたぁ

 :なに、なんなの!? 

 :急に叫ぶじゃん、こわっ

 :なんで突然叫んだ


「突然、どうしましたの!?」

「拙者、可愛い女の子が好きなのでござる」

「…………」

「…………」

「拙者、可愛い女の子が好きなのでござる。特に小学生女児が!!!!」

「…………」

「…………」


 ;へ、変態だああああああ!?

 :ござる何、カミングアウトしてんだああああ!

 :同接が50万突破している配信でなにを暴露してんだ、この一般人ござる侍は!

 :おまっ、ちょおま!?


「というわけでかわいい女の子ふたりといる空間に3時間もいて劣情が抑えきれなくなったので、叫ばせてもらったでござる」


 :劣情いうな

 :こいつ実はヤベーやつなのでは

 :どう見てもヤベー奴だよ、疑う余地ねえよ


「安心すると良いでござる。小学生以上の女の子は鑑賞するだけで、拙者手を出すのは小学生女児だけと心に決めているでござる」


 :アウトおおおおおお!

 :イエスロリータ、ノータッチ!

 :教えはどうした教えは!

 :こんなのがいるから、オレたちへの風当たりが強くなるんだよ

 :お侍様の性癖じゃない……

 :いや、お侍様美少年とか好きだから、案外残当なんじゃない?

 :カミングアウトされても困るやつじゃん、どーすんのこの空気


「なるほど……」


 反応しずらいことを言われたものである。

 とりあえずスルーしよう。深層とかに近づくほど探索者はイカれている人が多いと聞くが、本当のようである。

 そりゃ魔人とかいう連中も生まれてくるに決まっている。頭が根本的におかしくなってしまうのだろう。

 げに恐ろしき、ダンジョンの魔力と言ったところだろうか。


 ともあれ、彼女の宣言通り休憩中も鑑賞されるだけで特に何かあったわけでもなく、無事にダンジョンから帰還を果たしたのであったとさ。


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