第13話 吸血鬼
下層不日の城。最初のモンスターとは。
「あー、この形はー」
形――人型。
魔力――ぬらりとしたモンスター特有のそれであるが、循環の形式は吸血鬼のそれ。
洗練された魔力の感じからして間違いない。
「吸血鬼ですね!」
:なんで見えてないのにわかるでござるか……?
:臭いとか?
:吸血鬼って臭いないんだよな、不自然に
:嗅いだことあるのか
:魔力で世界を感じてるとかそういう感じっぽいんだけど本当に何が見えているの???
:わからねぇ……
魔術G:わしも知りたい
:魔術Gおっすおっす
:よう見とるな
:そりゃ見る
:良いだろ? 魔術Gだぜ?
「■■■!」
吸血鬼がわたしに気が付いて、攻撃態勢に入る。
吸血鬼の攻撃手段は血を使ったもの。血を身体から出して固める血刃、身体から放出する血弾。後は少しの魔術と言ったところ。
モンスターとしての吸血鬼は、近接タイプか遠距離タイプかの2種類に分かれる。
刃を形成したため、近接タイプと判断。魔力感知の範囲を広げて付近に遠距離タイプの吸血鬼がいないことを把握。
ハグレか、高レベルの吸血鬼だろうと断定。
「良いですね、楽しそうですよー!」
:るみるみ! そいつ高位吸血鬼だよ! 爵位持ち!
:コメント見えてないからどうしようもないよ
:爵位持ちって?
:渋谷ダンジョン下層の街を治める王――つまりエリアボスから力を分け与えられた存在ってこと
:ユニークモンスターって奴、不日の城には十三体の爵位持ち吸血鬼がいるんだよ。ちなみに、日本ダンジョン探索協会が出してる公式情報ね
:危険なモンスターの情報とかはすぐに拡散するんだよな、協会
:おかげで遭遇率とか減って探索者の生存率も上がるから有能だよ、協会
:ユニークモンスターは、イレギュラーモンスターとは違うのか?
:イレギュラーはその階層とは別の階層のモンスターが出現することで、ユニークモンスターは階層特有の超強いモンスター
;ほへー
:で、今その超強いモンスターの1体にるみるみは突っ込んでいってるとこでござる
:目隠し、耳栓でな!
:やばいじゃん!?
「■■!」
吸血鬼が何事かを言ってくる。
元ドッペルゲンガーだからある程度吸血鬼とも親交があって、話すために言葉を覚えたものだがこの世界のダンジョンのモンスターの言葉は意味を理解できない。
吸血鬼と設定されているが、根本として異世界の吸血鬼とは違う存在。おかげで倒しやすくて助かる。
腕から伸びた血刃を吸血鬼は振り下ろしてくる。
わたしはその攻撃に合わせて弾く。いわゆるパリィという奴。
そのまま攻撃へ移行。使用する剣技はわたしが覚えている剣技の中で最も鋭いシリュミュールの剣技。
「せいっ!」
筋力がなくても天地万物を斬るための剣という目標の下、シリュミュールが鍛え上げてきたものだ。
もちろん、わたしも入れ替わるために同じ技術を修練をして身に着けた。ドッペルゲンガーの特性上修得が早いため同じだけの時間ではなかったが、そこはご愛敬。
転生してからは修練のやり直しだったから許されるはずだ。
「■■――!!!」
結果は、一刀両断である。
刃を弾き、生じた隙に柔らかな手首を使ったしなるような剣捌きで一撃を叩き込んだ。
安物の剣であるが、まるで熱したナイフでバターを斬るかのように容易く頭頂から股下までを裂くに至る。
:すげぇ……
:やべえええええ
:るみるみって魔術師、だよな……?
:魔術師だよ(スケスケビキニアーマー目隠し耳栓)
:要素が渋滞してるよ!!
:手の動きがまるで見えなかったでござる……
:ドラゴンの四肢を両断してたから、これくらいは余裕、なのか
:てか見えてないのにどうして攻撃を弾けて反撃を叩き込めるんですか????
「うーん、まだまだだなぁ」
吸血鬼の厄介な点は知能がある点ともう一つ。
両断されたはずの吸血鬼は、わたしの目の前でみるみるうちに再生していく。
「再生能力があろうとも本物のシリュミュールなら一撃で倒せたはずなのに」
シリュミュールは騎士でもない冒険者であった。わたしが初めて会ったときもちょうどこのように吸血鬼と戦っていた。
一振りで再生する吸血鬼を消滅させるほどの剣技の使い手だった。
わたしはちょうどいいと彼女の後ろをついて回ってその剣技を見て覚えて修得してを繰り返し、彼女に成り代わった。
その時は、わたしのドッペルゲンガー生の中でも1、2を争うくらいには自由で楽しい日々だった。
転生したとは言え完璧に真似られていないというのは元ドッペルゲンガーとしてのプライドが傷つく。
「もっと頑張らないと」
「■■■!!」
再び襲ってきた吸血鬼の一撃を一歩ズレることでかわす。
通り過ぎ様にもう一閃。
今度は、より深くなるように鋭く振るったが一度見た剣を再び喰らう吸血鬼ではない。
もう片方の手から血刃を創出し、わたしの一撃を防ぐ。
その瞬間、わたしは剣を1度手放し、血刃を支点にして回転させる。
相手の懐に剣が入った時点で剣を手に取り、手首だけで首を刈るように振るう。
「■■!」
「まだまだ」
最小の振りで最大効果を発揮させるのがシリュミュールの剣だ。
指先、手首のみでもその斬撃はほとんどのものを斬れる。
ピアノでも弾くように指先で柄を叩けば、それだけで剣は振れ斬撃と化す。
吸血鬼の四肢が飛び、最後に首が飛んだ
吸血鬼の再生能力は高いが、首を落とされると再生速度が落ちる。
その隙に核である心臓を壊すのが上等手段である。
わたしもそのようにしようとしたが、危機を感じて一歩飛びのく。わたしのいた場所に血の刃が地面から突き出してきた。
もう一瞬、遅ければ貫かれていたのはわたしだっただろう。この吸血鬼、戦い慣れをしている。そこそこ長生きをしているのかもしれない。
そう思いながらわたしは剣を構える。
:あぶねぇ!
:ひやひやするぅうううぅぅ!
:はあはあ、危なかった心臓止まって死んじまったぜ
:成仏してクレメンス
:急いで心臓マッサージしろ
:目も耳もふさがっててよく感知できるでござるな
:下層で縛りプレイとか、最下層も行けるだろこれ
:下層以下の配信者が増えるのは良いことだ
:でもハラハラするから目隠しと耳栓はとってくれえええええええ!!!
「■■■■!」
四肢と首を再生した吸血鬼が腕を振るうと、地面から生えた血の刃がわたしに向かってくる。
当たるものは避け、避けられないものは切り裂く。
どうやら接近戦では勝てないと踏んだのか、わたしを近づけさせないようにする作戦にシフトしたようだ。
地面に血を通し杭として噴出させる。その数は剣1本で超えるには少々多い。
「でも、問題なし」
シリュミュールの剣に手数で勝負しようとは、仕方ないとは言え無知は怖いものだ。
わたしは再びポーチの中の亜空間から剣を取り出す。
その数、9本。合計10本を指をひっかけるようにして持つ。
重さに耐えられるように身体強化率を上げる。
「うん、ギリギリ、行けるかな。それじゃあ、手数勝負と行こうか」
わたしは10本の剣を手に吸血鬼に向かっていく。
シリュミュールの剣は十刀流の技がある。それがこれ指1本につき、剣1本を操作して敵を切り刻む技。
だいたい1対多数の時に使うか、厄介な再生能力のある敵を削りきるときに使う。
ペン回しの要領で剣を指で回しながら、吸血鬼が生やしてくる血の杭を切り前に出る。
後ろに下がろうとするよりも速くわたしは駆ける。
「逃がさないよ」
「■■!」
吸血鬼の目が見開かれているのを感じる。
容赦せず、わたしは剣を振るった。
「はい、討伐完了」
9本の剣をポーチに戻して、手を叩く。
「どうかな、視聴者のみんな。下層もいけるでしょ」
:十刀流ってなんだそれ!?
:指1本で剣1本振るってるんですが、まさかペンと勘違いしてらっしゃる?
:ペンは剣より強いもんな(白目)
:もう魔術師やめて剣士としてやっていった方がいいんじゃないか?
:でも、ほら剣士だと上はアレだし
:ああー、頭薩摩の妖精でござるかぁ
:この前博多駅ダンジョンの記録更新してたよな、一人で
:渋谷ダンジョンの記録も更新されるだろ、この調子だと
:忘れそうになるが、これ目隠しと耳栓してるからな
:行けるな(確信)
:楽しくなってきました
コメントは目隠しで見えないが、きっと盛り上がっているに違いない。
わたしはさっさと下を目指すべく、探索を再開した。
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