第12話 下層突入

「さあ、行くぞー、るみるみの魔術師ダンジョンソロ攻略はじめていっくよー!」


 配信開始ボタンを押すと、即座にコメントが流れ始める。


 :きちゃああああ!

 :きたーあああ!

 :待ってたでござるー!

 :あれ、これ渋谷ダンジョンの30層?

 :朝っぱらなのにもういるのかよ

 :それは俺たちも同じなんだがな!

 :このニートどもがよぉ!

 :はぁ? お前もだろうが!


 わたしがいるのは前回中断した渋谷ダンジョンの30階層である。

 ここでロックマウントドラゴンと戦ったのは数日前のこと。 

 ここに来るまでに前回は数時間かかったが、今回は時間をかけずに来た。もちろん魔術である。

 転移の魔術を使用してあらかじめマーキングしておいた30階層へと瞬間転移したのだ。

 これで時間をかけずに前回の続きから探索をすることができる。


 協会の仲間に言わせたら、「何そのチートスキル。ズルい」と真正面から言われたことがある。

 わたしもそう思うが、苦労して修得してきた技術なのだから使わせてほしい。

 毎回上層から降りていくと時間がかかりすぎるのだ。それによって配信時間が延びれば、万人が見やすい配信にはならない。


 ただでさえダンジョン配信は長時間化しやすい配信で、時間が流すぎてと切り抜きばかり見る層もいる。

 そこに一石を投じる、短時間配信スタイルで行こうと思うわけだ。


「みんなも来てくれてありがとうねー。平日の朝なのに!」


 :うぐっ

 :安心してくれ、会社で見ている

 :仕事しろ

 :やめろ、仕事しろは全体攻撃なんだ……滅びの呪文なんだ……

 :安心してくれ、ダンジョンで見てるでござる

 :今すぐ配信を閉じろ


「お仕事中の人はお仕事するんだぞー。それよりも見てこの防具! 親友が一晩でやってくれました!」


 :これが噂のスケスケか……

 :全裸……?

 :いや、よく見ろ、ビキニアーマーだ……

 :なん……だと……?

 :使われてる素材、ロックマウントドラゴンの奴では……?

 :またやったのか、親友……

 親友:うぅ……ごめんなさい、ごめんなさい

 :親友さんグッジョブ!

 :光の加減で全裸にしか見えねぇ……大丈夫? BANされない?

 :安心しろ、ダンジョン配信はそこのところがばがばゆるゆるだよ。よっぽどのことしない限りは問題ねぇ

 :本当かー? 本当にそうかー? 深層の令嬢を見ながら

 :そいつは例外

 ;全裸ダンジョン攻略を現実に見れるとは……

 :全裸(スケスケとビキニアーマー)

 :全裸とは……?

 ;心の目で見るものさ……

 :すごい、僕にも全裸が見える……!


 この全裸にも見えてしまうビキニアーマーのおかげで、同接はうなぎ上りである。

 エロ目的を深層探索で、探索堕ちさせるのが楽しみである。


「中層はさっさと進んで下層に行こうと思います」


 魔術師ソロでの下層配信を行っている者はいないからまずはそこがスタートラインだ。

 わたしは常に発動させている身体強化率を引き上げてダンジョン内を駆ける。

 魔力が見えるわたしにはゲートの位置もわかる。最短距離で走れる中層の森の方が、上層よりも速く進むことができる。


 並みいるモンスターたちはスルーか、蹴散らしながら進み渋谷ダンジョンの下層51階層へとやってきた。


「下層にとうちゃーく!」


 :はっや

 :はええよ

 :ずっと走ってたからな

 :魔術師様の体力じゃない……

 :普通の剣士よりも速い速度出てたんでござるよなぁ……拙者より早くね???

 :やっぱ身体強化効率やべえ

 :どうやったらできんだよ……


「とりあえず魔力を見れば――というのはさすがに暴論なんで」


 :魔力はどうやってみるんですか

 :目を改造する、とか……? 

 :無理じゃねーか!


「魔力を扱う感覚を研ぎ澄ませることですかね。とりあえず、目を閉じて耳も塞いで魔力感知だけで生活できるようになれば、わたしほどじゃないですけどそこそこまではいけるんじゃないですかね」


 :魔力感知だけで生活って無理では……?

 :あれ、魔力があるものを点でしか感知できないじゃん

 :魔力がないものは感知できないよな?

 :どうすんだ????

 :むりむりむーりーでごーざーるー!


「ああ、なんか勘違いがあるね。魔力感知スキルじゃなくて、素の魔力感知の方。ほら、魔力を感じるって奴。それで生活するの」


 :もっとわからなくなった

 :どゆこと?


「魔力を感じるってみんなやってますよね、魔術や身体強化を覚えるために」


 :うんうん

 :小学校の授業でやったやった

 :体内の魔力を感じるって奴ね


「それを体内じゃなくて体外の魔力を感知して、それだけで生活するの」


 :体外の魔力ってかんじれなくね……?

 :魔力圧は感じられるし、あながち不可能ではないの、か?

 :空気を感じろって言ってるようなものじゃん

 :無理ではー?

 :なるほど……無理でござる!


「でも、二宮金三郎はやれましたよ。配信外でやらせたら一発でできてちょっと引きました」


 :良いだろ、魔術Gだぜ?

 :人類規格外と一緒にしないでくれます?

 :魔術Gは最強クラスの感覚派の天才だからな

 :天才過ぎるんだよ

 :まあ、そうじゃないと何もないとこから魔術なんて意味不明なもん発掘できないからな

 :何者なんだよ、魔術G

 :ヘンタイ

 :てかお手本見せてよ


「うーん、良いよ?」


 :いいのか!?

 :え、まさか、下層ここでやるとか言わないよね? 

 :うそでしょ?


「やれと言われたからにはやるよー。その代わり、コメント見れないからよろしく」


 亜空間にしまってあるものを使って目隠しと耳栓を作成して装備する。

 これでわたしは完全に目も見えなければ耳も聞こえない状態だ。

 しかし、わたしはその昔、盲目の剣士に成り代わっていたことがある。目が見えない程度では問題にならない。

 耳が聞こえないのは少し問題であるが、むしろ魔力感知が冴えわたる。少しだけ、世界がより深く見えそうであった。


「流石にこの状態だと少し効率は落ちるか。あとは魔術発動もまあ難しいよね。というわけで剣で切り払いながら進むことにします。じゃあ、本格的に下層へゴー!」


 :魔術師が剣とはこれ如何に

 :もはや魔術師でもなんでもなくなったぞ!?

 :剣士でも無茶なことやってるんですが、これは……

 :どうすんだよ、これ


 これでわたしもようやく下層探索者の仲間入りだ。

 ランクはEからBランクに上がっている。Bランクは下層へ入れる探索者として実力が認められたら発行されるランクだ。

 深層のドラゴンを倒しているからもっと上に上がるかと思ったが、後は実際に深層に行って戦えるかを確認してからという風に言われたのでBランクなのである。


 だいたいの探索者はCランクが多く、Bランクから上は上澄みと呼ばれる領域。

 配信者の数はこのランク帯から極端に少なくなる。


 同接が10万人を超えて上昇中。チェンネル登録者数も50万人突破。まだまだ伸びる。

 下層で戦えることがわかれば、同接と登録者数はもっと伸びる。それくらいに下層配信は少ない。


「魔力圧はさすがの下層ですね。強いです。でも、この程度ならまだまだ行けるので最下層まで行っちゃいましょうか」


 :ひえええ、目を開けてくれー

 :耳も塞がないで

 :見えてないからダメだ、こりゃ

 :どうすんだよ、これえええええ!

 :なんとかなるのか? なんとかなるのか!?

 :ならない、現実は非道であるにならないことを祈るでござる

 :お祈りはいやだああああああ!

 親友:瑠美さーん! お願いですから無茶はしないでー!


 51階層から広がっているのは夜空の天幕を持った地下都市のような領域である。

 不日の城と呼ばれる常夜の領域で、ここにいるモンスターたちはゴーストと言った心霊系や吸血鬼と言った闇の生き物たちになる。

 もっとも今のわたしは魔力感知だけで行くという縛りがあるので、見えないわけなのだが。


「それじゃあ、最下層まで走っていきましょー」


 魔力強化を発動し、剣を片手にダッシュ開始。

 体外の魔力を感じるのは初めてだ。ずっと目で見ていたから、目で見ないのは少し違和感がある。


「おっ、最初のモンスター発見! 突撃ー」


 下層最初のモンスターへわたしは突撃するのであった。

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