第11話 新しい防具?
「出来ました!」
深淵の叡智の本拠から帰ったわたしを出迎えたのは、ボロボロの静香であった。
何が……?」
「お洋服です!」
「え、昨日の今日だよね」
「はい。頑張りました」
「…………」
明らかに作業スピードが速くないだろうか。前は2週間ほどかけて作っていたけれど、1日しか経っていない。
このまま新しい防具ができてしまってはスケスケでなくなってしまう。それはマズイ。なんとか説得しなければ。
「ええと、静香、新しい衣装は」
「はい。こちらです」
「…………んー?」
そこにあったのはまごうことなきビキニであった。あえて言うならビキニアーマーであろうか。
少ない布面積。どこを守っているのかわからない形。どう考えてもエロ目的としか思えないような、実用性皆無衣装である。
そりゃ確かに1日で造れるわと納得する、するが解せぬ。
葉隠静香という女は、真面目が服を着ていると言われるほどに真面目な女である。
おしゃれ盛りの中学時代、同級生やわたしがおしゃれに目覚めスカート丈を短くしていく中、彼女だけは常にスカート丈膝下の校則を守り続けた。
両親が取材旅行で不在の時も設定された門限を1分の狂いなく守り、待ち合わせをしたら最低1時間前には待ち合わせ場所に立っている。最長は24時間前である。
掃除時間、男子生徒が箒と雑巾で野球をやっているなか1人黒板を磨き続け、長年の使用によりもはや黒には戻らないと思われたチョークの白で汚れた黒板に黒曜石のような輝きを取り戻させもした。
そんな女が例えわたしにスケスケを着せたくないからと急いで衣装を作ったとして、ビキニアーマーなどというふざけた代物を出すなど天地がひっくり返ってもあり得ない。
いや、もしや本当に天地がひっくり返ってしまったのか。わたしはそう疑って、思わず窓の外を仰ぎ見た。
普通であった。
つまりこれは現実の出来事ということである。
「……えっと」
「待ってください」
静香はビキニアーマーを手に持って困惑しているわたしを手で制し、すっと床に正座する。
そして、思わず見とれてしまうほどに綺麗な動作で土下座に移行した。
デジャヴとはこのことであろう。つい数日前にも同じようなやり取りをしたことを思い出す。
「本当にごめんなさい! スケスケにしないようにしたんです、そうしたら、こうなってしまったんです!」
「ああうん、それはわかるから大丈夫」
静香がビキニアーマーを真面目に出して来たら、天地逆転かインフルエンザを疑う。
風邪もひかない体調管理も万全な静香が病気になるとしたら、それはもうどうしようもない感染症のインフルエンザなどくらいだからだ。
どうやらスケスケにならないよう素材の厚さを削らないようにした結果、使用する面積を削る結果になったのだという。
なんとも極端なことであるが、そうなってしまうのもわかる静香の真面目っぷりに思わず感心してしまう。
しかし、この調子であれば次はしっかりとスケないで布面積も十分な衣装を出してきてしまいそうである。
次に渡す素材はもっとレベルの高いものにしようと心に決めるのであった。親友を裏切っているようで心苦しいがわたしの配信の話題性の為には今はまだスケスケ衣装を着ておきたい。
決してわたしが痴女などではなく、配信の為だ。
「とりあえず、これはありがたくもらっておくね。良い出来だよ、流石静香」
「うぅ、恐縮です……次こそは頑張ります!」
「ああうん、でも1日とかじゃなくてもっと時間かけて作ってね」
「はい。それはもう。今回はスピードを重視し過ぎましたので、ゆっくりじっくり作りたいと思います」
「それにしても……」
見事なドラゴンスケイルビキニアーマーである。
次はこれねと渡したドラゴンスケイルであったが、厚さは損なわずに面積だけ削って良くも加工してみせたものである。ほとんど鱗をそのまま使っているのも加工の早さの理由か。
性能もばっちりだ。このビキニに覆われている部分だけは、竜鱗を突破できるだけの力がないと傷一つつかないだろう。
惜しむらくはやはりビキニアーマーであることくらいである。
「とりあえずスケスケと併用だね」
さしものわたしもビキニアーマーだけでダンジョンに潜るというアホな行為はできない。上層での探索だけならまだいいが、わたしが目指す場所は下層よりも下なのだ。
流石に完全装備とは言えずとも相応の性能の装備だけはしておきたいものである。
スケスケと併用なら中の黒インナーがビキニアーマーに変わるだけで動きも変わらないのが良い。
見方によってはよっぽど全裸っぽく見えるのではないだろうか。なぜならロックマウントドラゴンの竜鱗は光の加減で肌色に見えてしまうのである。
スケスケ衣装と合わされば、カメラの加減では全裸に見えるのは間違いなかろう。
「うん、ばっちりだね」
問題はわたしの羞恥心であるが、配信がバズるためならばわたしの羞恥心はゴミ箱に捨ててしまっても構わない。
そうわたしは決して痴女ではないが、配信を盛り上げるための必要なことなのだ。
「うぅ……」
静香は泣いているが、本当に良い装備なのだ。
「よーし、それじゃあ試着してくるね」
とりあえず着てみよう。わたしは新しく買ったものは即座に使う派だ。
その場でぽいぽいと服を脱ぎ捨ててビキニアーマーを着てしまう。
「どう?」
「う、ぅぅ、お似合い、です……」
「なんでそんな苦痛にまみれた顔してるの」
「だ、だって! 瑠美さんに破廉恥な恰好をさせてしまっているんですよ!? すごく似合っていますが、似合っていると言ってはそれは瑠美さんが破廉恥の似合う女と言っているようなものじゃないですか、でも嘘は言えなくて!」
「うーん、かわいい」
「ど、どうして突然ごほ、いえ、そんなことを!?」
「かわいいから」
「だ、だから、何故!」
ともあれサイズぴったりである。
これならば激しく動いたとしてもズレることはないだろう。あまりにもピッタリすぎて着てないかのように感じてしまうところがすごい。
「静香は良い職人になるね」
「……恐縮です。晩御飯の用意もできています」
「今日のメニューは?」
「お土産のカニとドラゴンのお肉です。流石にそのまま置いて行かれた時はどうしようかと思いました」
「おぉー」
いっぱいあって冷蔵庫に入らなかったから、これ使ってと渡してあったのだった。
「今日は豪華だね」
「しばらくはドラゴンのお肉料理になりそうです」
「飽きそう」
「贅沢すぎますね」
「ドラゴンの肉は高いから売れるんだけど、自分で食べた方が良いからね」
ドラゴンの肉は実に素晴らしい効能がある。
能力値の上昇、スキルレベルの向上と言った効果だ。
これ自体が、すさまじい魔力の塊でその数%くらいは食べたら無意識でも吸収できる。食べるだけで強くなれる夢の食材。
だから、ドラゴンの肉の料理は成功を呼ぶ料理だとか言われていたりする。
わたしは意識的に魔力を吸収するからほぼ100%の効率でドラゴン肉の恩恵を得られる。そんな肉を手に入れてしまったら、売るのはもったいない。
ただ食べるのに一手間も二手間もいる。そこは静香がいてくれた助かった。加工スキルでうまく加工してくれると柔らかお肉になるのだ。
持つべきものは親友である。
「明日の為にいっぱい食べますか」
「どうぞ」
「いただきまーす」
カニとドラゴンの肉はとても美味しかった。
これで明日の配信も頑張れそうである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます