第10話 魔術講座配信②
いつの間にか同接も5万人を超えていた。
ダンジョン配信じゃないのに、ここまでの同接はダンジョン配信者としては誇っていいだろう。
わたしがコメント欄を見ている間に、二宮金三郎は己の考察を展開している。
「スイカを割るために指示を出す者が魔術師、指示が詠唱、目隠しをしてスイカを割る者が魔力、スイカが魔術と考えよ」
もうわかるじゃろ? と意味深にウインクする二宮金三郎。
池田さんはジトりとした目でそれを見てからわたしへ視線を向ける。
「るみるみさん?」
池田さんが、本当にこの男は正しいことを言っていますか的なことを言外に聞いてきた。
この世界の魔術の認識的には、二宮金三郎の言っていることは的を射ている。
「はい。二宮さんの認識は正しいですよ」
「続けてください、アホマスター」
「スイカ割りと同じで、詠唱をすると魔力がその通りに動く。そして魔力が所定の位置へ移動すると魔術が発動する。これが普通の魔術行使じゃ。ここまではわかるじゃろう?」
「私は魔術師じゃないので、なんとも。感覚的には理解できますが」
「それでよいのじゃよ。わしらも感覚でしか魔術を使っておらんのだからな。しかし、小娘は違う。小娘は魔力が見える。その状態はスイカ割りでいえば、目隠しをしていない状態と同義じゃ」
「なるほど……目標が見えるから指示である詠唱がいらないということですか?」
「はい、正解ですね」
無詠唱の理解としては、正しい認識だ。
「知りたい! 小娘にはどんな世界が見えておる! 知りたいぞおおおおおおおお!!」
二宮金三郎が大声を出しながらビチビチと跳ねている。なんとか画面に映りこもうとすごい跳躍力を見せている。
:60歳のじいさんの姿か、これが?
:良いだろ? 魔術Gだぜ
:いまいち説明がわからんでござる
:安心しろ、オレにもわからん
:るみるみはあの目で魔術を使うための何かが見えているから、それに直接働きかけることができる。
そのおかげで詠唱がいらないってことか
:何かって何?
:おせーてーるみるみ!
「ほら、視聴者も教えてほしそうじゃぞ」
「まあ見せることはできますよ。ただ真似できるかどうかは別ですけどね。わたしくらいの魔力コントロールが必要なんで」
見えてない状態ではわたしと同程度の魔力コントロールはほとんどできない。
それはわたしがこの世界に転生してきて見てきた魔術師たちや戦士たちの魔力コントロールからも明らかだ。
見えないものを感覚で動かしているのだから、さもありなんというところだ。
「うーむ、わしらに魔力は見えんからのぅ。小娘、お主魔術行使による魔力ロスがほぼ0じゃろ」
「あ、わかります?」
「ワハハハハ! わしより魔力少ないのにあんだけ魔力使った後にドラゴン討伐しとるんじゃ、わかるわ!」
「そうですよ。実は周囲の魔力も使えるので魔力切れなしです。魔力循環時の抵抗も無視できてロスもないので身体強化の効率も段違いに高いと自負してますね」
魔力量でいえばわたしも多い方ではあるが、わたしの2倍、いや3倍あるのがこの二宮金三郎という男である。
単純に生きた年数の差というのもあるだろうが、それ以上に才能であろう。魔術に関して少なくともこの国には、この男以上の者は今のところいないと断言できる。
「うらやましいのぅ、うらやましいのう! わしもコントロールには自信があるが、流石にそれは無理じゃからなぁ。なあ、半分くれない、その眼」
「ダメです」
「チェー、ケチ」
「普通に人の目を半分取ろうとしているのがヤバイんですよ。術式を見せるので我慢してください」
「イヤッホオオオオオオオオオオオオオ!」
魔力圧縮を用いて魔力を可視化する。
今回は大サービスで、氷の術式を見せてあげるとしよう。この術式というのは、かつての世界に広まっていた法則の根源の方だ。
つまり太源であるため、これを見て勘の良い二宮金三郎ならば派生形の術式まで至れると思ってのことである。
「はい。これが術式です」
「ふははははははは――――――!!!!!!」
大喜びでびたんびたんと飛び跳ねて二宮金三郎は気絶した。
「えぇ……」
「うちのアホが申し訳ありません」
「つまりこうじゃな?」
「うわっ、突然起きないでくださいよ!」
というか、目覚めた瞬間に何をやるかと思えば二宮金三郎はあろうことか無詠唱で魔術をぶっぱした。
「ふむ、まあ四割減ってとこじゃな」
見ただけでできるととかどんな天才だ?
そもそも魔力が見えてようやくできるものを感覚だけでマネしないでほしい。
:気絶して、突然目覚めたと思ったらジジイが無詠唱で氷の魔術を使ったんだが、これは……?
:良いだろ? 魔術Gだぜ? いや、よくないかもしれん……
:ほんと、EXはよぉ!
:おまえこの前雷の魔術使ったばっかだろ!
:この配信だけでどんどん魔術の常識が崩れていく……
:火、水、風、土だけだったろ魔術はヨォ!
:今日までで雷と氷が追加だゾ
:追加されてねえよ、使えねえよ! どうなってんだよ!
:雷の魔術なんて詠唱まで魔術Gが解明してんのに、同じ詠唱しても使えないからな!
「あー、あの詠唱は音程とか詠唱の速度とか、口に出す1音1音を調節してやってるっぽいのでそこまで完璧にマネしないと使えませんね。無詠唱はなんでできるのかわかりません」
それができてしまう二宮金三郎という男の魔術への執念と技量と特性が恐ろしいという話なのだ。
わたしなんてこの目があってちょっとだけズルをしているような状態でようやくなのだから本当に規格外という名がふさわしい。
「簡単なことじゃよ小娘。見えんのなら、感覚で完璧に魔力を制御すれば良いだけのことォ!」
「どこが簡単だ、どこが」
わたしより難しいことをしないでほしい。わたしへの注目度がかっさらわれるじゃないか。
トレンドやネットニュースも二宮金三郎、無詠唱だとか、新魔術行使だとかであふれ出しているじゃないか。
それくらい無茶苦茶するに二宮金三郎のせいで、同接も15万を超えた。
「さあ、他にも見せろ小娘ェ! 真似してやるからなァ!」
ここで嫌と言えないのが元ドッペルゲンガーの悲しい所だ。同時に真似されて少しうれしく思っている自分もいるのも複雑なとことである。
「それじゃあ、次は」
「失礼します」
「ギャフ」
池田さんが二宮金三郎をぶん殴って気絶させて、隣の部屋に転がしていった。
「ええと……?」
「これ以上は、流石にダメでしょう。探索者の技術を教えてもらうのならきちんと料金を支払うべきです」
「うっ……」
すみません、前世でお金も払わず、教えを乞いもせずに技術を覚えて成り代わってすみません。
でもドッペルゲンガーだったの本能と習性だったので許されるはず。
転生してからはきちんと教えを乞うようにしているから、問題はない、はずだ。
「私としては全然大丈夫なんですけど」
「日本ダンジョン探索協会としては問題にしてほしいと思いますよ」
「協会ですかぁ」
ちらりとスマホを確認すると、確かに協会からメールがたくさん来ている。
ダンジョンに関しては外国との関係とかで、色々とあるらしいという話は聞いていたが未知技術であろう火、水、風、土以外の魔術に関してはさすがにいろいろとあるということか。
:教えてほしいけど、協会が問題にするのは確かにそう
:この情報、国際情勢とかに関わりそうだしな
:ダンジョン犯罪者に伝わったりするとヤバイだろうし
:確かに
:氷の奴でも相当ヤバイからな
:でも誰もマネできねえだろ
:見せてたアレがなんなのかもいまいちよくわからないしな
:わかったら、魔術Gになれる
:わからなくてよかったあああああああああ!
二宮金三郎みたいなのが他にいないとも限らないわけだし、確かにここまでにしておいた方が良いだろう。
「わかりました。では、魔術講座はここまでにして次回の予定について話しておきましょう。次回は渋谷ダンジョンの続き、行きます! 行けるところまで行く予定なの皆さん見てくださいねーでは、またー!」
:おつー!
:おつおつー!
:おつるみでござるー!
:また見るぞおおおお!
:渋谷ダンジョンのどこまでいけるのか楽しみにしてる
:上がってこい、オレたちのところまで……
:ダンジョンだから下がるだろ
:そいつ上層組なんだろ
:どこまでいけると思う? 俺深層
:わからん、深層のドラゴン倒せるならもっと行けるんじゃないか?
:これが昨日まではEランクだった新人配信者の姿である
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