第9話 魔術講義配信①
さっそくであるが、配信を開始する。
告知は完了しているし、問題はない。
「はーい、みんなこんにちはー! 元枝瑠美です! 配信を始めまーす!」
:きちゃー!
:きたー!
:待ってたでござるよー
:いえええええええええ!
:うおおおおおおお!
挨拶を済ませたところで現在の同接は1万人。2回目の配信だし、配信内容をまだ伝えていないからこんなものだろう。
まだまだ1度話題になった程度。これから増やしていくのだ。
:今日はダンジョン配信じゃないんだよね
:昨日の今日は何するのー?
:てか、どこにいるんだ?
;家?
:家にしては、広いだろ
:なーんか、見たことあんな
:あっ、ここって!?
「今日は、深淵の叡智の本拠に来ていまーす」
:魔術Gのとこだああああああ!
:ぎゃああああ魔術狂いの巣だああああ!!
:昨日の今日なのに行動が早いな
:いいだろ、魔術Gだぜ?
:るみるみ、クラン入りでござるか?
:るみるみくらいの実力なら当然かー
「おっ、るみるみってかわいいね。じゃあ、これからはるみるみで行こうかな。あとクランには入らないよー。あのヤバイおじいさんのいるとこ行きたくないし。今日は謝罪してくれるというから来た感じです」
:やたー
;いえーーーい
:るみるみかわいいぞー
;魔術Gに対する認識wwwww
:そりゃ、そうよ
:てか、今日はスケスケじゃないのかぁ
:スケスケはどうしたスケスケは
:なんで着ないんだ
:痴女が服着てるの違和感
:まだ2回目なのにこの言われようである
:スケスケ状態でやったことがやったことだからな
確かに話題性ならスケスケで行った方が良いのはわかる。
わかるが、この配信ではスケスケ防具を着てこれない理由がある。
「スケスケじゃ公共機関乗れないからね。BANされるよ、ダンジョン外配信だから」
:まっとうな理由で草
:そりゃそうだわ
:常識があるとかファッション痴女じゃん
:そもそも常識ない痴女は配信に出て来ねえよ、出て来れねえよ!
:つ深層の令嬢
:あれは妖怪だろ
:例外中の例外を出すな
:あれを女と認めるのか……
:心の目で見たら可愛いでござるよ
:心の目で見るな、現実を見ろ
:現実見たら、吐くでござる
:まあ、流石に警察に捕まったら配信できないからな……
:残当
:ダンジョン内ではゆるゆるでも、ダンジョン外での配信は規制厳しいからなぁ
「ダンジョンでは着るから安心してねー」
安心したとコメントが流れまくっている。みんなはスケスケ衣装が好きなようだ。羞恥心を除けばいい防具だから、わたしも好きではある。
スケスケでほとんど見えないがデザインも良いのだ。着心地もよく、欠点がスケスケなことしかない。
静香は今頃、駄目です絶対! と拳を握っていることだろう。次の防具完成が楽しみだ。
「というわけで、さっそく登場してもらいましょう。EXランク探索者 最初の魔術師 二宮金三郎さんです!」
パーンと紹介してやったところ、ロープでぐるぐる巻きにされ、猿轡をされた二宮金三郎が転がってきた。
陸に上がった魚のようにびちびちとしているのが気持ち悪い。
「…………」
:魔術G縛られとるwwwwww
:wwwwwww
:やべえのきたwwww
:どうなってんだwwww
:あーあーwww
:るみるみ困惑してんじゃんwww
:びちびちしてんのきもちわりいwwww
「え、えーと……」
これは聞いてなかった。流石のわたしもどうすればいいのかわからない。
「ごめんなさい。御見苦しいものをお見せしました」
するとスーツを着こなしたすらりとして凛とした女性がやってきて、二宮金三郎を蹴っ飛ばして画面外にぶっ飛ばしてくれた。
そのままわたしの隣にやってくる。
「マネージャーの池田と申します。昨日はうちのマスタ、いえアホがご迷惑をおかけしました。クランを代表して謝罪いたします」
きびきびとした動作と凛とした声ですっと頭を下げる池田さん。仕事のできる人という感じだ。
この人が二宮金三郎のマネージャーさんでありクラン「深淵の叡智」の副マスターで、実質的なリーダーだとか。
実力も二宮金三郎の前衛を務める程度には強いらしく二宮金三郎を拘束した張本人であるようだ。
マスターと言おうとしたところをアホと言い直した辺り、随分とストレスが溜まっているようである。
:マネージャーさんちっすちっす!
:ご苦労様です!
:クランマスターの扱いが酷い
:良いだろ、魔術Gだぜ?
「謝罪を受け入れます。では、この件はこれで終わり! それじゃあ本題! るみるみの魔術講座を始めまーす!」
わたしの言葉を聞いた二宮金三郎がびちびちと暴れ出し、そのままわたしの足元まで転がってくる。
「ふぉらほのまとお!!」
:必死だな魔術Gww
:魔術に対するその熱量はどっから来るんだ
:マネさん呆れとるやんけwwww
:つーかあのジジイるみるみのパンツみてね?
:まて、もしかしたら裸パーカーの可能性もある
:それだ!
:結局るみるみは痴女
:いや、魔術Gが女の子のパンツに興味あるわけないだろ良い加減にしろ!
:オマエら、るみるみの魔術の話だぞ、しっかり聞いた方が良くね?
:いいや、パンツの方が大事だね!
「とりあえずおじいさんは無視せて続けるね! わたしの魔術は基本的にはみんなが使ってる魔術と違いはないよ」
わたしの言葉に池田さんがすっと手を上げる。
真面目さんである。
「はい、池田さん」
「しかし、るみるみさんは詠唱なしに魔術を行使していますし、魔術の全てとされる4属性以外の未知の魔術も使用していらっしゃいますよね? 同じ魔術とは思えないのですが」
「ふがふがー!」
「それに関して言えば、わたしがみんなより少しだけ魔術を知っているだけですね。そのうち、まあ数十年後かもしれませんけれど、みんな使えるようにはなると思いますよ」
「ふごっふ!」
二宮金三郎がものすごく喜びの舞のように床を跳ねまわっている。
この人、次の魔法使いが死ぬまで生き続けるつもりなのだろうか。わたしが使える魔術全部が使えるようになるまで下手したら何千年とかかかるはずだが、生きるつもりだろうか。
この人ならなんだかんだ生き続けそうなところが怖いなと思ってしまった。
「何故知っているかは」
「企業秘密です」
「当然かと思います」
「ふごおおおおおおお」
びちびち跳ねまわっていた二宮金三郎が悲しそうに床に沈んだ。
滂沱の涙を流し続けて、床に水たまりを作っている。そんなに悲しいのか。漫画みたいな涙の流し方で少しどころか相当にみっともない。
しかし、画面外の出来事である。池田さんは努めて無視。
「では単刀直入に。何が違うのですか?」
「目です。わたしの目、普通とは違うのはわかりますよね」
「はい。とてもお綺麗かと」
「ありがとうございます。二宮さんも昨日の配信で言っていた通り、この目に秘密があります。そのおかげで捨てられてもどうにかこうにか生きてこれましたから。この目はなんとー、魔力が見えるのです」
;な、なんだってー!?
:魔力が見える?
:見えるとどうなるでござる?
;知らん
:そこ詳しく
「なるほどそういうことか!」
二宮金三郎が猿轡を無理矢理外したようだった。なんという執念だろうか。その執念深さには流石のわたしも脱帽した。
これほどまでに向上心のある人間をわたしは視たことがない。親近感が沸いてしまうではないか。
「魔術とはわしらにとってはスイカ割りじゃ」
「スイカ割りですか? マスター詳しく。それしか取り柄がないんですから」
「あれ、わしの扱い悪くない?」
「当然かと」
:まあ、うん
:そりゃ、そうよ
:普段のDX見てるとなぁ
:相当苦労させてますし
:実質的にマネさんがクランのリーダーですし
:なんですか、それじゃあ魔術Gがダメ人間みたいじゃないですか
:その通り
:高機能社会不適合者だから、魔術G
:良いだろ? 魔術Gだぜ?
「えぇ……まあ、良いか」
:いいんかーい!
:すんってするな
:ほんともう、こいつ
:このジジイはなんでこんなにも面の皮が厚いんだ
:良いだろ? 魔術Gだぜ?
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