第16話 模倣戦技

 剣と盾を構えてわたしはクイーンの方へと向かう。

 今までの戦闘でダメージが蓄積しているため倒しやすいからだ。

 流石のわたしもイレギュラー2体同時は厳しい。まずは減らす。


「あなたから」


 ゆっくりと進むわたしにクイーンの血の羽と悪魔の炎の剣が迫る。


「邪魔しないでね」


 炎の剣を盾で受け、羽を斬り払う。

 そのまま剣を押し返すとともに盾で殴りつける。


「◾️◾️!?」


 身体強化された盾の一撃は、ボールのように悪魔を上空に打ち出す。

 てこの原理と魔術を利用した吹き飛ばしだ。しばらくは落ちてこない。


 :すげぇぇ!

 :でも全裸に見えて集中できねぇ!

 :行けるのか?

 :悪魔って聖なる遺物しか効かないんだよな?

 :だから遺物使い潰したわけで

 :どーすんのぉ!?

 :気合いでござるよ(白目)

 :気合いでどうにかなるならイタリアで国宝クラスの遺物を10個もダメにしてないんだよぉ!


「落ちてくるまでに決めよう」


 再びクイーンへと向かう。

 放たれる血を剣と盾を用いて打ち砕く。

 どれほどの手数があろうとも無意味。堅牢な城砦のようにどのような攻撃もわたしのところには届かない。


「◾️◾️!」

「相手が悪いよ」


 久しぶりにこの剣技の主のことを思い出す。

 わたしが使っているのは、異世界の聖騎士ミステル・アージェントの剣だ。


 ミステル・アージェントはヴェアハーデンの聖騎士長パラディンマスターだった。

 彼女の技術を修得し、同じ姿で目の前に立ったわたしに彼女はこう言った。


『やったぜ、アタシの仕事、全部アンタが肩代わりしてくれんだろ? 良いね最高だ。喜んで成り代わらせてやるよ』


 魔を祓う聖騎士のくせに不真面目で破戒的で、面倒臭がりのダメなやつだった。

 ただその強さだけは本物だった。わたしが成り代わりたいと思うくらいには凄まじかった。何せ、成り代わろうとしたその瞬間に新たな剣を生み出すのだ。


 おかげで彼女が病で死ぬまで、わたしは彼女を殺せなかった。ドッペルゲンガーとして修得していない技術があるうちは殺せないのだ。

 そのくせわたしに自分の仕事を肩代わりさせて、自分は遊び呆けるなど好き勝手やっていたものだ。

 あの頃は分からなかったが、今はわかる。ミステルはわたしの友達だった。


「◾️◾️!」


 ついに一足一剣の間合いへと入る。

 クイーンは離れず血の剣を作り出し、わたしへと振るう。

 わたしは左の盾で剣を受けると同時に右の剣を振るう。


 クイーンの剣を持つ腕が飛んだ。

 再生はない。さらにその傷口が白い炎で燃えだす。


「◾️◾️!?」

「聖騎士の剣は聖なる魔力が宿ってるんだ。まあ、今回は違うけど」


 今回の場合は魔力で剣を作り出し、その魔力を聖属性に変換した。聖属性そのものだ。

 その威力は、見ての通りである。不浄なアンデッド系モンスターに対して絶大な特攻を持ち、再生を阻害する。


 ただわたしは不満だ。ミステルの剣ならもっと威力が出るはずだが、そこそこに止まっている。

 重さが足りていない。やはりもっと筋肉が必要だ。鍛えるメニューをもっとハードにすることを心に決めてクイーンを倒しにかかる。


 クイーンは斬られた腕を庇いながら、血の翼でわたしを狙う。

 狙いが甘いのは焦っているからだろう。生まれてから聖属性ダメージなんて受けたことがないのだ。

 アンデッドモンスターにとって、聖属性ダメージは地獄の苦しみに違いない。もっとも手加減などするつもりはない。

 この後本番が控えているのだから、遊んでいる暇はないのだ。


 それに吸血鬼など、ミステルは何度も倒している。そのくせも異能もわかりきっている。

 剣を振りかぶるとクイーンは焦ったように防御を固める。

 だからわたしは剣で斬りかかると見せかけて、盾で殴りつけてやる。


「◾️◾️!?」


 盾も聖属性魔力でできているからダメージが入る。綺麗な顔面に消えない火傷を刻んでしまった。

 わたしは容赦せず攻め立てる。

 剣を警戒すれば盾で、盾を警戒すれば剣で。距離を取ろうとしたら魔術で足止めをする。


「これで終わり」


 最後は心臓を一突き。クイーンの全身が白い炎に包まれて消えた。


「クイーン討伐です」


 :うおおおおお

 :よしよし!

 :やったでござるな! 安心したからボス行ってくるでござる!

 :でもこっからが本番だぞ

 :配信見ながらボス戦はやるなよ?

 :クイーンは立ち回りと火力あればなんとかなるからな

 :悪魔とかどうすんだよ

 :なんとかなるんじゃね?

 :だと、いいなぁ……

 魔術G:うおおお、新しい魔術うぅぅぅぅ!

 :この状況で興奮できるジジイェ……

 :良いだろ? 魔術Gだぜ?


 クイーン討伐と同時に悪魔が落下してくる。落下ダメージを喰らって欲しいところであるが望み薄であろう。

 悪魔は聖属性攻撃以外は無効だ。この世界では遺物を使ったり、聖水でなんとかするしかない。

 わたしの場合は聖属性の魔力か魔術でなんとかする。


 ミステルはなんと言っていたか。


『は? 悪魔? んなもんハンマー持って走って行って頭潰せ。それで終わるだろ』


 そうだった、脳筋だった。しかも彼女の発言であり、わたしの発言だった。

 聖騎士団の副団長に悪魔の倒し方を聞かれたから答えたのだった。あの時の副団長の顔はよく覚えている。何言ってんだこいつって顔。


「まあ、でも実際それが有効なんだよねぇ」


 盾と剣を融合させて両手持ちのハンマーを作る。

 あとは身体能力に任せて接近。落下の衝撃にふらついていた悪魔の頭にハンマーを叩き込む。


「ん、ダメか」

「◾️◾️◾️!!」


 ダメージはあったが、思ったよりも少ない。

 魔力武器の欠点だ。重さがないから打撃系は威力が落ちる。

 だから剣や槍にして鋭さと切れ味で勝負する。


 ともかく身体強化でパワーは出ているが重さはどうにも今ひとつ。

 天岩戸のわたし専用武装ならそんなことはないのだが、配信では使えないから仕方ない。


「こんな時は」


 威力が足りないなら、その分殴り続ければ良い。それがミステルの教えだ。

 ハンマーを構えていざチャレンジ。


 悪魔の巨体を掻い潜りながら、ハンマーでの攻撃を加えていく。

 剛腕がわたしの横を通り過ぎていく度に冷や汗が流れる。当たるつもりはないが、当たった時の威力を想像するとやはり恐ろしいものは恐ろしい。

 何せ当たってもいないのに悪魔の拳によりわたしの背後の城壁は砕け、城下町が更地と化していく。


「◾️◾️!!」


 拳は当たらないと地獄の炎を悪魔は放つ。花園が一瞬で焦土と化した。

 わたしは、シールドで防ぐ。

 シールドを維持したまま接近。炎を放っている口を下からハンマーを蹴り上げてかちあげる。

 接近でシールドが耐えきれずに地獄の炎が掠ったが、もともと深層素材の防具のおかげで大事にはならずに済んだ。それでもスケスケ衣装は燃え尽きたが。


「◾️!?!」


 空いた胴体に全身を使った横薙ぎを叩き込んだ。硬い皮膚で止められた。骨は折れていない。逆に反動でわたしの腕の方がダメージを受けた。

 しかし、悪魔の全身には焼けたような傷が刻まれている。聖属性ダメージの蓄積はある。


「このままいければいいんだけど」

「◾️!!!」

「そうはいかないよね」


 悪魔は背から羽を生やすと飛び上がった。

 魔力が渦巻き、緑に燃える地獄の炎が玉となって悪魔の周囲に浮かぶ。


「◾️◾️◾️!!」


 悪魔の号令の下、地獄の炎がわたしへと降り注ぐ。

 わたしは聖属性魔術【聖域】を展開。

 闇に属する全てを拒絶するが、それ以外や物理にはまるで意味をなさないシールドのような魔術だ。その分、効果は絶大。地獄の炎は聖域に接触すると同時に消え失せる。

 しばらく打ち続けていたが、辺りを焦土にするだけで効果がないと悟ったのだろう悪魔は降下してくる。


 そのままわたしの聖域に突入と同時に地獄を展開する。聖域と相反する異能により、聖域が中和される。

 同時に地獄の炎が再び悪魔の周囲に装填される。


「なるほど、だったら……!」


 わたしはハンマーを槍へと変えると同時に模倣していたミステルの戦闘技法から別の戦闘技法へと切り替える。

 槍となったハンマーを投擲。同時に悪魔へと疾走。

 槍は直撃前に悪魔により弾かれるが、地獄の炎の射出は遅れる。


 その間に懐に飛び込み、槍を魔力で掴んで引き戻す。


「腕がちょっとダメになるけどこれならどうよ! 山穿ち!」


 槍を持つ腕を捻り回転させて突きを放つ。

 この一突きは技の名と同じ山穿ちと呼ばれたドワーフの技だ。


『そこに山があるんだ、穴空けたくなるだろ』


 そんなことを宣い、山に穴を空けまくっていた男だった。

 この男に真似するべき技術はただひとつだけだった。槍による一突き。ただそれだけだ。


 すぐに修得できると思っていたわたしだったが、ドッペルゲンガーの修得の速さを持ってしてもその一突きを完全に修得するのに10年もかかった。

 だからこそ、この一撃は悪魔の硬い皮膚だろうがなんだろうが貫ける。


「◾️◾️◾️……」


 聖属性の魔力で心臓を貫かれた悪魔は、一気に全身が白い炎で燃え上がる。

 わたしは即座に悪魔から離れて死ぬのを待つ。流石に心臓に聖属性魔力を流し込まれたら死ぬはずだ。


 たっぷりと時間がかかったが、ついに悪魔は倒れた。


「ふぅ、討伐完了!」


 

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