第44話 事件後

 再生した千貌は織野華により切り伏せられた。

 千貌の不運は織野華の存在そのものだ。だからこそ織野華になろうとしたのだろう。

 その為に織野華に発見されてはどうしようもない。確定死亡だ。


 それでも再生しようとするのは流石の高ランク魔人というところであるが、ダンジョン内ならいざ知らず、ダンジョン外でドラゴン程度の再生能力しかないのならば無理だ。

 なぜなら織野華にとってドラゴンなど、その辺の雑魚と大差ないのだから。


「まだ生きとーと? なら死ぬまで殺し続けるけんね」


 振りが連続する。

 千貌の心中を察する事はできないが、わたしは羨ましいと思った。

 わたしですら一撃しか感じていないのだ。一撃で首は落ちたから、その後わたしは見ていただけで感じられていない。


 もっと感じたかった。羨ましい。ズルい。わたしにも。

 そう思ってしまうのは止められないし、興奮でもじもじしてしまった。

 だいぶ挙動不審だ。天岩戸は織野華の出現に蜘蛛の子散らすように撤退していったので、見られる心配はないが、推しに見られるのはヤバい。


 もし変態と思われては生きていけない。フルフェイスマスクは、さっきの戦いでぶっ壊れてわたしは完全に顔出し中だからマズイったらマズイ。

 衣服の方も局部だけ隠してる布ってだけの状態。ヤバい。こんなことなら正装をしてくるのに。


「よし」


 そして気がつけば千貌は粉になっていた。再生は流石に止まっていた。

 ドラゴンハートを潰せばドラゴンも死ぬ。それと同じ原理であるが、粉になるのはもうドラゴンハートだとか、再生力だとかいう話とはではない。


「おしまい。帰る」

「あっ、あにょ!」


 緊張で噛んだ。恥ずかしい。


「なん?」


 わたしはここだと思った。ここを逃せば直接会えるのはいつになるかわからない。


「え、えとえと、こ、コラボしてくれませんか!?」

「よかよ」

「そうですよね、ダメ……えっ良い!?」

「ん、よか」

「ほ、本当に?」

「ん」

「あ、ありがとうございます!」

「ただし」


 あっ、やっぱり条件あるんだ。


「うちについて来れるようになったら、よか」

「具体的には……?」

「うーん……どんってやって、しゅってして、ぱんってのができるようになったら?」

「?????」

「?????」


 2人で首を傾げあってしまった。そんな姿もかわいい織野華、人間として可愛さ反則である。


「え、えっともっとわかりやすく?」

「わからんと?」

「まったく」

「…………」


 考え込んでしまった。なんとも微妙な顔をしている。配信では見ない顔だ。

 わたしがそんな顔をさせたのだと思うと、背筋がぞくりとする。


「うーん……ぐぐっどんってやって、バババッしゅってして、ヒュンぱんってのができるようになったら?」

「…………」


 変わってない。なんだか擬音が増えただけだ。


「わかった、見せる」

「えっ」


 織野華がぐぐっどんってやって、バババッしゅってして、ヒュンぱんした。

 わたしには全く見えなかった。おかしい。わたしの魔眼は大概のものを見通せるのではなかったのか。

 初見の遺物の効果を見抜き、その人の技術を丸裸にするのではなかったのか。

 それが織野華の動きすら見切れない。


 5割はそこそこ見えたいたはずであるが、これまだ本気ではないと思う。まだ上がある? それともわたしが弱い?


「これくらい。わかった?」

「見えなくて……」

「えー…………信じられんくらい弱かね」

「ぐふっ……」


 クリティカルヒット。わたしは瀕死だ。


「なら……とりあえずEXになって。それくらいになれば、少しはマシになっとーやろ」

「はい、がんばりましゅ……」


 そして、わたしは気がついたら病院にいた。


「…………すぅー」


 息を吸う。


「はぁー……」


 息を吐く。


「あぁぁぁ、華ちゃんかわいかっぁぁ! あだだだだだ!?!?」


 全身がバッキバキとピキピキと痛みが走った。バラバラになったかと思ったほどだ。

 これが新技の弊害なのか、ただの無理した結果なのか。それとも水に浸かったからなのかわからない。

 たぶん最後のは違う。


「うっさい!」


 どうやら織野華のかわいさと、その織野華から信じられないくらい弱いと言われたショックで気絶したらしい。

 そして、うっさい発言は一花である。どうやらちゃんと生きていたらしい。五体満足で何よりである。


「生きてたんだ」

「アンタのおかげでね! どうもありがとう!」

「あっ、うん」


 死なないギリギリを狙って治して強くなれるようにしたとは言わないでおこう。

 探索者は瀕死になると、体を治そうと多くの魔力を取り込もうとする。その過程で身体が強くなる。魔力圧耐性を上げる時と同じ理屈だ。


「アンタも手ひどくやられたみたいじゃない。医者がすごい顔してたわよ。よく生きてるって」

「まあー、5割織野華と戦ったもので」

「よくもまあ、それで織野華かわいいなんて言えるわね」

「かわいいものはかわいいんだよぅ」

「……アンタ、なんかあった?」

「何が?」

「……なんでもない」

「変な一花ママ」

「ママ言うな!」

「で、隊長来た?」

「まだよ、アンタが目覚めたからそろそろ来るでしょ」


 一花の言葉通りというか、言葉を言い終わると同時にガラリと病室のドアが開いて隊長が入って来た。


「やっほー、みんな元気ー? これお見舞いのメロンね。こっちは昨日から寝てないよ」

「入院患者に元気か聞かないでくださいよ」

「じゃあ、早速今回のことについてだけど、ダンジョンブレイクの被害はないよ。EXたちが解決したからね」

「本当に規格外ね」

「むしろよく動いてくれたよね」

「織野華は馴染みのラーメン屋の大将が巻き込まれたから、二宮金三郎は君が巻き込まれたから、深澤真紅は住んでたダンジョンから放り出されて帰るため。まあ、運が良かったよね。まるでEXを動かすことが目的だったみたいに都合が良い」

「それは正しいですよ。わたしが戦った魔人がそんなこと言ってましたから」

「えー? そーなの? 異能は?」

「変身コピー、ドラゴンハート」

「ドッペルゲンガーとドラゴンね。しかも織野華コピー。よく倒せたよね」


 本当によくも倒せたもの。トドメを刺したのは織野華だが、わたしだって一度は首を落としてドラゴンハートを欠損させるまでは行ったのだから頑張った方だろう。

 わたしの弱さも自覚したし、修行あるのみだ。


「それで同時多発ダンジョンブレイクはなんて発表されるんです?」

「それがさー、見てよこれ」


 隊長がタブレットのスイッチを入れた。

 包帯で頭を覆った何者かが映っている。


『人類諸君、我々は魔人。ダンジョンに選ばれた新たなる人類です。我々は、ダンジョンを自在に操ることができます。先のダンジョンブレイクも我々が起こしました。我々はあなた方古い人類を滅ぼします。まずはアメリカです』


 動画はそこで終わった。


「なんです、これ?」

「ダンジョンブレイク収束時に放送されたビデオメッセージ」

「つまり?」

「魔人の存在、バレちゃった」


 てへとでも言いそうな軽さで隊長は言ってのけた。


「どっ、どうすんのよ!? 今まで散々隠しておいたのに!」

「大丈夫大丈夫。ちゃんと対処したから」

「アレですか、隊長」

「そう、アレ。ピカッてして記憶消す装置。試作品はデカすぎて仕方ないからスカイツリーの上とかに設置してたのが効いたよ」

「じゃあ、問題はないってこと?」

「うん、ないよ」

「ならそう言ってくださいよ!!!」


 一花の全力のツッコミであった。


「いやぁ、入院で暇かなって思って。ジョークだよジョーク。ラビットウォークなんて、インビシブルエッジの寝顔見てばっかだったし」

「見てたの?」

「はっ、はあ!? み、み、見てないわよ!!」

「えーむっちゃ見てたよ」

「見てません! 隊長は黙ってて!」

「見てたの?」

「…………少し」


 一花はかわいいね。


「まあ、とりあえずそんなわけだから一般には突発的異変で発表したからよろしく。これから忙しくなるよ。表に出てくると言うのなら今度こそ、魔人の息の根を止めてやるつもりだから」


 こわいこわい。隊長が本気になったらどうなることやらだ。

 巻き込まれないように離れておきたい。


「じゃ、そう言うわけだから身体さっさと治してねー」


 隊長はメロンを置いて帰っていった。


「一花ー、わたし動けないからメロン食べさせてー」

「はいはい! 仕方ないわね!」


 入院生活は一花ママのおかげでそこそこ楽しかったと言っておこう。


 ●


 さて魔人が出てこようが何しようが、わたしの配信業はことも無し継続である。

 天岩戸は忙しいが、配信を休むことができないのが兼業の悲しいところだ。リーマンもこんな気分なのだろうか。


「こんるみ〜。退院したからダンジョン配信やってくよー」


 :いや休め

 :何してんだ

 :退院後即ダンジョンに来る配信者の鑑でござるな

 :大丈夫なのか

 :まあ、大丈夫なのだろう


「大丈夫大丈夫! もう治ったしダンジョンにいる方が早く治るからね」


 :そうなの!?

 :魔力濃度の問題らしいが、そうだぞ

 :まあ、中層以降の話だぞ

 :上層はほとんど地上と変わらんからな

 :退院後即下層とは生き急ぎすぎでは


「だって、華ちゃんから信じられないくらい弱いって言われちゃって修行しなきゃって」


 :草ァ!

 :草

 :華ちゃんと比べたら全人類弱すぎだから気にするだけ無駄

 :それ言われてなお、おっかけれるるみるみがやべぇよ

 :織野華の配信見て配信始めた異常者だぞ、これくらい普通だ


「ぐぐっどんってやって、バババッしゅってして、ヒュンぱんってのができるようになったらコラボしてもらえるらしいので頑張ります! とりあえず目指せEX」


 :なんて?

 :擬音しかないのだが?

 :華ちゃんは説明が感覚的なだけだから(震え声)

 :もしかして剣以外ダメ説

 :ありえる


「華ちゃんは神だから。理解できないわたしがだめだめなのだ。とりあえず理解できるように深界目指してしゅっぱーつ!」


 そんなこんな新しい目標であるEXになるために深界を目指しダンジョンを進もうとしたところで金髪でお胸の大きな女性が現れた。


「およ?」

「ヘーイ、ガール。アメリカでコンベンションやるんだけど来ない?」


 そして、そんなことをいってきた。


 :ん?

 :はい?

 :えっ?


 どうやら次はアメリカに行くことになりそうである。



—————————————————————


あとがき


ここまでお読みいただきありがとうございます。

これにて第1章終了となります。

これから2章の構成執筆に入るなどやっていくので一旦更新ストップです。

ゆるゆるとお待ちいただければと思います。

新年から新章スタートできれば良いなと思ってますが予定は未定です。

ではでは、更新再開までしばしお待ちください。


予告?

アメリカで開かれるダンジョン探索コンベンション。

世界中から集まる有名探索者。

日本からはるみるみ、田中、兼業リーマン、魔術Gが参加することに。

彼らのサポートに選ばれたのはSランクのメイドと天岩戸第VII席レインドール。

コンベンションではオークションが開かれ、ダンジョンで見つかったある秘宝が出品される。

その秘宝を狙い魔人が動き出す。

るみるみたちは否応なく魔人との戦いに巻き込まれていくのであった。


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