第23話 フィレンツェダンジョン配信1

 フィレンツェダンジョンへと侵入する。


 フィレンツェダンジョンの内部は広大な空間が広がっていた。荒れ果てた大地に大穴が空いているのが見えた。

 穴の底を見通すことはできない。魔力の流れ的に穴を下りていくのが正しい順路のようである。


 ところどころ溶岩が噴き出していて人間が進むことを阻んでおり、禍々しい緑の液体やら毒沼のようなものまで見て取れる。

 雰囲気も禍々しく、魔力圧はまさしく深界そのもの。入っただけで身体が一気に重くなる。全体の圧力に締め付けられるように感じる。

 ただ破裂したりはしない。問題なく動ける。一花も問題なさそうである。


「ここが、フィレンツェダンジョン」


 :地獄だ……

 :ヤバそうでござる

 :魔力圧ヤバそうだな

 :フィレンツェダンジョンは、最初から深界っすっけ?

 :そう、だから入れる探索者が極端に少ない

 :いや、案外入れる奴はいる。ただそこで生存できるだけの実力がないのが多いだけ

 :るみるみ、深界の魔力圧も耐えれるのか

 :よかったこれで破裂したらもうやばかった

 :まあ、耐えられなかったら魔力異常の時に戦えてないからね


「ここがフィレンツェダンジョンです、るみるみ様、イチカ様」

「すごく深そうね」

「うーん、悪魔の気配がすごい。ヤバそうですねー。でも、頑張っていきましょう!」

「はい!」


 さて、というわけでわたしたちは地獄への1歩を踏み出した。


「シスター、ここはどんな階層ですか?」

「はい~。ここはですね、地獄の入り口と呼んでいます。我々はこれから大穴を下りていきます。これは1番の特徴ですが、このダンジョンには階層ごとのゲートがあるわけではないのです」

「ゲートがない? そんなダンジョンがあるんですか?」 

「はい、あります。エリアごとに強さが分かれていて下に行くほど悪魔は強くなっていきます」

「なるほど。それにしてもシスター日本語お上手ですね」

「トップ探索者としての嗜みです。るみるみ様こそ、イタリア語がとてもお上手ですよね」


 わたしは配信向けに喋る時以外はイタリア語で話している。


「施設にいた頃は暇な時に辞書読んでたんですよ、他に読む本がなくて。で、だいたいの言語は覚えました」


 :さらっとお出しされるお辛い施設生活情報……

 :読む本ないからって辞書……

 :なんとかならんかったんすか……

 :ピンキリだから……

 :まあ、それが今のるみるみの成功の糧になってるし

 魔術G:わしも辞書ばかり読んでおったぞ!

 :魔術G!

 :Gもよう見とる

 :あんたはどうせかっこいい単語調べてただけだろ!

 :あるある、中二病の時にかっこいい詠唱とか考える時に使ったわ


「まあまあ~。それは苦労なされましたね。私が褒めてあげます、よしよし~」


 なぜかシスター・アデーレに頭を撫でられる。


 :あらぁ~

 :いいぞ~これ~

 :尊いでござるな~

 :シスター・アデーレの身長がデカイからか、まんま大人と子供だな、これ

 :るみるみ小柄っすからね

 :一花さんも結構大きいから、間に挟まれるとマジで子供

 :2人がでかすぎるのよ

 :シスターが180以上、一花さんが175くらい

 :るみるみは?

 :るみるみは150ちょい

 :最高かな?

 :ちっちぇぇなるみるみ……


「そこまで。悪魔が来たわよ」


 周りを警戒していた一花の警告が飛ぶと同時に岩陰から悪魔が飛び出してくる。


「シスター。まずはいつもどのように戦っているのか見せてもらってもいいですか?」

「は~い、いいですよ~」


 悪魔という深界モンスターが現れてもシスター・アデーレの持つ雰囲気は弛緩したゆるいものであった。

 1歩前にでると、懐から十字架を取り出す。


「まず、悪魔に対して有効な攻撃手段である遺物を用意します」


 イタリア各地や世界中から集めまくっている聖なる気と呼ばれるものを持っている遺物だ。わたし的に言えば聖属性魔力の宿った遺物。

 それを取り出し、もう片手で球体を取り出す。手の中でマジックのようにいくつも増えるそれをシスター・アデーレは悪魔に向けて投げつける。


「■■■!!!」


 球体は悪魔にふれると同時に爆発する。


「私は爆弾職人というスキルを持っています。作った爆弾を使って足止めを行い、近づきます」


 絶え間なく爆弾を浴びせ、悪魔の動き止める。

 放たれる拳に爆弾を当てては逸らし、相手が近づいて来ようとすると足元に投げていた爆弾で牽制。


「すごいわね。これがイタリアのトップか……アンタから見てどうよ」

「わたしに聞きます? 見た通りですよ」

「アンタはアタシたちに視えないもんが見えてるでしょうが」

「そうですね、流石はトップと言って遜色ないですね。アレ、ばあちゃんに匹敵するスキルレベルですよ」

「うわっ……トップって言うだけあるわぁ……」


 それでも遺物を使わなければダメージにならない。


「そして、近づいたら遺物を押し付けて爆破です」


 遺物自体を爆破させることで、聖属性魔力を解放。その奔流で核にダメージを与えて倒すのがシスター・アデーレのやり方であるらしい。


 :爆弾シスター……

 :いろんな意味で爆だ……

 :ああ、爆乳でござる……

 :太ももも爆っす……

 :オマエらどこ見てんじゃい!

 :でも見るだろ

 :うん

 :正直でよろしい

 :てか、シスターが爆弾職人ってすごいな

 :職人スキルの名前の前になんかつくと特化職人なんだっけ

 :そう、それだけしか作れないけど性能がダンチ

 :そりゃ悪魔を牽制できますわ

 魔術G:爆弾、職人……特化…………閃いた!

 :閃くな

 :何をする気だわれぇ!

 :やめろ、やめろ

 :絶対ロクなことにならねえ……


「このような感じです。遺物は1回に1体くらいしか倒せませんし、正直コストパフォーマンスが悪いのですが、倒さないとまたダンジョンブレイクが起きてしまいますからやるしかないといったのが現状です」


 おかげでイタリアの財政は遺物購入費で圧迫されているという状況であるらしい。

 ダンジョンブレイクが起きてから、あらゆるダンジョンに人を呼び込み、モンスターを倒してもらえるように世界的に素材の買い取り額のアップや、探索者割引、探索者のモンスター討伐義務などといった制度が整備されていったとか。


「なるほどわかりました。確かに遺物が勿体ない」

「はい。ヴァチカンには聖なる遺物を取得できるダンジョンがありますので、そこから融通してもらってはいますが数は心もとなく。毎回手に入るというわけでもないので」

「というわけで、状況はわかりました。これから悪魔を倒せる方法を伝授していきたいと思いまーす」


 :待ってました

 :さて、またどんなことを言いだすやら

 魔術G:うおおおおおおおお!

 :おちつけジジイ

 :張り付いてんな、こいつ

 :でも、どうするんだろ聖なる遺物でしかダメージいかにないのに

 :前の切り抜きみてないな? るみるみはなんか悪魔にダメージ通す手段があるんだよ

 :問題は他の人にもできるかなんだよな


「では、まずはわたしがかるーくやってみましょうか。そこから解説していきますね」

「よろしくお願いします~」

「手伝いはいる?」

「大丈夫」


 では、まずやることは聖属性に魔力を変化すること。

 というか、やることはこれだけで良い。

 根本のエネルギーを聖属性に変換したら、後は魔術を使用するだけ。


 【タイダルウェイブ】、水属性の上位魔術を使用。


「白い、水?」


 白い大波は悪魔を飲み込み滅した。


「はい。どうでしょう。水属性魔術のタイダルウェイブで悪魔を倒しました」


 :ええええええ!?

 :何、何をやったの?

 魔術G:白いタイダルウェイブじゃとおおおおおおおおお!?!?!?!

 :ジジイ、解説するでござる!

 :早く教えてほしいっす!

 魔術G:わしにもわからん

 :お前がわからないならだれがわかるんだよ!

 :誰にもわからねえよ!

 :るみるみ解説、早く!

 :早くして、義務でしょ!

 :うおおおおおお!


「はいはい、解説します。まずわたしがやったことは1つだけです。この1つができれば後は簡単に通常の魔術でも近接戦闘でもどうにかできます」

「本当ですか~!?」

「もったいぶらずに早く言いなさいよ、みんな待ってるでしょうが」

「一花ママはせっかちさんだなぁ」


 ちらりと確認すると同接は100万突破していた。なら焦らす必要もないかと思い直す。


「ママに言われたので、さっさとやることを言いますね。魔力を聖属性に変換するんです」


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