第22話 休み明けの配信

「みなさん、お久しぶりー、こんにちはー。あ、もしかしたらこんばんはかな? るみるみこと元枝瑠美です! 2週間ぶりの配信はじめて行きますねー!」


 :来たー!

 :長かった、本当に長かった……!

 :きちゃぁ!

 :待ってたでござるうううう!

 :早いなロリコン侍

 :やっぱいたなペド侍

 :ヘンタイ美人だ

 :おまえら、るみるみに注目しろよwww

 :待ってたぜえええええええ!

 :あれ、ここどこ?

 :日本じゃなくてね? てか、何その忍者衣装……スリットやべぇ……

 :時間も遅いし、まさか?

 :また、変なことになってる?

 :おいおい、まさかここって

 :あの与太本当だったの!?


 勘のいい視聴者はわたしがいまいる場所に気が付いてきたようだ。

 隠すことでもないのでさっさとネタバラシ。

 芸術品のように美しい街並みをカメラに映していく。


「わたしはなんと今、案件というかダンジョン協会の要請というかでイタリアフィレンツェに来ていまーす!」


 わたしは今、イタリアのフィレンツェにいる。時差は8時間。

 こちらでは9時だが、日本は17時くらい。

 天岩戸で隊長から言われた任務というのがこれ。


 :イタリアだああああああ!

 :フィレンツェだあああ!

 :ふつくしい……

 :外国勢が多いわけだよ!

 :同接えぐ、もう50万超えてる……

 :海外でも宣伝されてるっぽいからまだまだ行くな、これ

 :今70万とか行ってる……

 :すごいな……

 :まだ上がってるよ……

 :イタリアの探索者がめちゃくちゃ見てるんじゃないか、これ

 :そりゃ見るだろ、たぶんこの配信って悪魔の倒し方とかだろ


「そのとーり! わたしは悪魔の倒し方を教えるということでイタリアにやってきたのです!」


 悪魔と戦って遺物アーティファクト使わずに倒したのを見たイタリアのダンジョン協会が日本のダンジョン協会に対して働きかけてきたらしいのである、悪魔を倒す技術を教えてほしい、と。

 それで諸々の条件交渉の末、わたしは技術供与を了承。ただしその様子を全世界にも配信させてほしいという条件で。


 なおかつそちらのトップクラスの技術を教えてもらうというおまけも要求した。

 よほど困っていたのだろう。そんな条件でもイタリアダンジョン協会はゴーサインを出した。

 それで色々と協議やら調整をしたおかげで2週間も間が空いた。


 それだというのに、同接は最初から10万人を超えていて、今は70万。さらにどんどん増えていていっている。

 ダブルイレギュラーの時は最大50万人超であったが、もうそれを超えている流石は協会の宣伝力というべきか。


 イタリアダンジョン協会が国民に告知を出していたし、今、日本でもわたしがDXで告知をした。

 さらにダンジョン協会の方も宣伝してくれているはずである。


 さて、喜んでいる場合ではない。案件なのだから、しっかりとやらなければ国際問題とかに発展する可能性がある。


 わたしは真面目モードである。

 だから、今回はスケスケもビキニアーマーもなし。残念ながら親友防具でもなく、きちんとした着物防具である。

 見た目は忍者服っぽいのである。海外ウケがとても良いのだ。


「初海外+国際案件ということで今回は保護者もついてきております」


 :保護者?

 :だれ?

 :親友ちゃんでござるか?

 親友:誰でしょう

 :親友ちゃん見とる

 :ってことは別の誰かか

 :施設育ちだし、施設の人とか?

 :協会の人じゃね?


「日本ダンジョン探索協会の星宮一花さんでーす。ぱちぱちぱち」


 カメラを動かして、わきに控えていた星宮一花を映す。


「日本ダンジョン探索協会の星宮一花よ。イ、じゃなくて――る、瑠美のサポートで派遣されたわ」


 引きつった笑みをしながらも台詞を言いきった一花。一瞬、インビジブルエッジって言いかけたのは後でお説教せねばなるまい。

 いや、ちょっと意地悪して懲らしめよう。


 :協会の人だ

 :協会にこんな美人さんがいたのか

 :俺、協会に通うわ

 :サポートってことは、深界行けるのか? EX級なのでは?

 :魔力圧への耐性だけ見ればそうだけど、実力的にはどうかはわからん

 :公式発表では3人だからな、EX

 :拙者も通うでござる

 :落ち着け

 :ふむ、スーツがお胸でぱっつんぱっつんですね?

 :すばらしい…… 

 :うっ……ふぅ……


「緊張してるみたいですねー。わたしも初海外で緊張して昨日は一花ママにホテルでいっぱい甘えちゃいました、てへ」

「ちょっ!」


 :その詳しく……!

 ;百合ですか、ふむ……続けて?

 :あらぁ~

 :ママと子供ですか

 :母性に溢れてますねぇ(一部分を見ながら

 :あの母性に包まれるるみるみか……

 :待て待て、るみるみには親友ちゃんがいるんだぞ

 :馬鹿野郎、メイドお嬢もいるんだぞ

 :ついでにござるも!

 :あ、拙者、端で見てるだけでいいでござる

 :このござるそういうとこばっかわきまえやがって!

 :妄想はただだ!

 :そうだな! 絵師、がんばってくれ!

 :あ、描いたら拙者にもくれでござる

 :端でいいつったのにこのござるは


「ちょっと!」

「あーれー」


 わたしは少しカメラ外に一花に連れ出される。


「どういうつもりよ!!!」

「ウケ狙い?」

「ウケ狙いじゃないのよ! 何言ってくれちゃってるの!? アタシとアンタ同い年でしょ! 甘えたって何よ! サポートって聞いてきたのよ、うきうきで! どうなのよ、イン瑠美!」

「危ないって、ここでそれ言わないでよ」


 何を隠そう、この一花はラビットウォークである。

 わたしと同い年であるが、わたしの保護者ということになっている。逆サバ読みである。

 設定上は25歳とかそれぐらいになっていたはずである。実年齢はわたしとほとんど変わらないのである。


「まあまあ、ママキャラで行こう」

「いやよ! アンタアタシに一切甘えないじゃない!」

「甘えていいの?」

「……………………うん」


 なにやらめちゃくちゃに葛藤をした星宮一花は真っ赤になりながら頷いた。


「いいんだ……」

「だって、アンタ施設育ちでしょ。愛情に餓えてるかもしれないじゃない。なら、それくらい与えてあげるのが恵まれたアタシの義務って奴でしょう?」

「えっ」

「え?」

「ああ、うん。餓えてる餓えてる」


 前から思っていたがこの子、大丈夫かな。ツンツンしてるくせして、お人好し度が天元突破している。

 別に甘えなくても良いが、せっかく甘えさせてくれるというのならば甘えさせてもらおう。別にわたしは甘えくてもいいけど、せっかくだしね、せっかくだから甘えよう。

 わたしだってたまにはママの愛に埋もれたくなることがある。その豊満な愛に。


 というわけで打ち合わせを終了して画面に戻る。


「はーい、みんなごめんねー。ちょーっと段取りの打ち合わせしてました」


 :OKOK

 :いいよー

 :さっきの話を詳しく

 :教えてほしいでござる! 拙者、理性を失おうとしているでござる!?!?!?!?

 :どうどう、落ち着け落ち着け

 :これから見れるっしょ

 :楽しみっすね!


「それじゃあ、今回の協力するイタリアの探索者の方をお呼びしましょう。イタリアのトップ探索者のシスター・アデーレさんです!」

「は~い」


 極限までに弛緩したふわふわとした声が響く。

 ただそれだけでこの場の雰囲気がわたがしにでも包まれてしまったかのよう。


 配信画面に現れたのはシスター姿の女性である。シスター服に包まれた豊満すぎるほどの肉体は暴力的ですらあった。

 ゆるっとした笑みをたたえた彼女は、異世界で1度見たことがある聖女のような気品すら感じる。


 :うお、でっけ……

 :やばっ

 :これがイタリアのトップ!?

 :すご……

 :るみるみがまるで子供みたいな

 :でけぇ、すべてがでけぇ……

 :これが世界か……!

 :糸目っすかぁ

 :すごいでござるな~


 そして、彼女はわたしたちの隣に来るときにずっこけた。


「ふぎゃ!?」

「…………」

「…………」


 :…………

 :こけたね

 :こけたな

 :かわいい声出てたな

 :いいのか、これで?

 :空気停まってるんだけど、大丈夫?

 ;配信止まった?

 :機材トラブル? 

 :いや、唖然としてるだけ


「あらあら~、申し訳ありません。私ったら」


 恥ずかしいと立ち上がりながら顔を赤くするシスター・アデーレ。


「改めまして、日本の皆さま、シスター・アデーレと申します~」


 :やべえ、睡眠導入音声だ……

 :あ、寝る……Zzzzz

 :なんという癒しボイスでござるか……

 :てか日本語うめえな……

 :探索者はワールドワイドだからな、トップ勢は数か国語覚えてるんだよ

 :マジか

 :すげーでござるなー

 :魔術Gは、全世界の言語を覚えたとか言ってたぞ

 :あのジジイは何やってんだ

 :魔術の研鑽だってさ

 :いいだろ? 魔術Gだぜ?


「今回はこのメンバーでフィレンツェのダンジョンに挑みながら悪魔の倒し方をレクチャーしていこうと思います!」

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