転生した元ドッペルゲンガーは、ダンジョン配信で推しとコラボしたい

梶倉テイク

第1章 ドッペルゲンガーの転生

第1話 ドッペルゲンガーの転生

 わたしはドッペルゲンガーである。名前はとてもたくさんある。

 ある小さな村にある母子家庭に生まれた。元騎士だとかで苦労はなくわたしは育てられた。

 母は強く、モンスターを狩って生計を立てていた。わたしは何度も背負われたまま母の狩りに連れ回された。

 母の剣は荒々しくも洗練されていて、母のようになりたいと幼心に思ったものだった。


 成年になったわたしは、自分がドッペルゲンガーであることを自覚した。本能のまま同族を探して仲間入りするために家を出た。

 数年後、ドッペルゲンガーとして巣立ったわたしは人間に化けることにした。母のように強くなりたいという思いがあったからだ。それには人間に化けるのが都合が良かった。


 人間に化けるのは大変だ。

 姿形は同じにできても、その人の言葉や技術、癖、記憶まで同じになるわけじゃない。

 化ける人の後について回って、その心を読み取り、記憶を覚え、練習して技術を習得し、寸分の狂いなく同じ行動をとれるようになって初めて人間に化けることができる。


 面倒だという同族もいた。

 わたしはそれを好んだ。


 人の技術を覚えては化けて、覚えては化けてを繰り返す。

 ドッペルゲンガーは、真似をするのが得意でどのような技術も覚えることできた。

 そして、覚えたことは忘れない。

 覚えれば覚えるほど、姿形を変えれば変えるほどわたしは強くなっていった。


 強さに執着していたわけではないが、できることが増えていくのはとても楽しかった。

 わたしは気ままに数年ごとに姿を変えながら人の国で生活していた。


「あの人、良いな」


 ある日、王都の騎士に化けて暮らしていたわたしの前に、わたし好みの素晴らしい人間を見つけた。

 後をついていくとその人は最近、名を上げている異世界から召喚された勇者だということを知った。


 ちょうど魔王様から勇者を殺せという命令を受けていたわたしは、これ幸いと勇者に化けるために追跡をする。

 勇者も殺せて、その技術も手に入れられる。一石二鳥という奴だ。


 その瞬間、勇者の剣が音もなく閃いた。


 振るわれた剣には一切の無駄がなかった。

 最適な力、角度、運用。

 足、腰、肩、腕、あらゆる部位の連動はよどみなく行われ、ただ一瞬の閃きを作り出す。


 普通、予備動作という起こりがあるはずが、それすら感じられない完璧な軌跡を描く一振り。

 回避する、という選択肢は最初から与えられなかった。

 閃いた剣は、刹那の内にわたしの首を両断する。


 斬られたということをわたしが認識したのは、わたしの首が地面に落ちた時、首を斬られたことすら気が付かず、応戦しようと剣を抜く自分の身体を見た時だ。

 首をなくしたわたしの身体は、本能のまま勇者に斬りかかっていった。


 再び勇者が剣を振るった。

 今度は、よく見えた。


 その剣は空に輝く太陽の光を思わせた。

 身を焦がすほどに強く鮮烈。

 目に焼き付くほどに鋭く痛烈。

 まさしく剣技としての極限であり、ある種の到達点。

 ここまで来ればもはや技というより芸術とでも言いたくなるほどの剣。


 一合でもいい、打ち合ってほしいと思った。

 少しでも打ち合ってその剣を体験したいと思った。


 そんな甘い希望は通らない。

 剣を打ち合う前に剣を持った右腕が切り落とされた。


「ああ、なんて……なんて綺麗な…………」


 死にゆくわたしは、この剣を覚えることができなかったことにただ無念を感じていた。

 もし次があれば、絶対にあの剣を覚えたい。

 魂を焼くような剣光を、手にしたい。


 わたしの意識はそこで途絶え――。


「元気な女の子ですよ」


 ――再び始まった。


 そこで出会ったのだ、あの日、わたしを殺した剣に。



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