第30話 襲来のG
一瞬、だった。
「ワハハハハハハ!」
一瞬で二宮金三郎は、わたしへと激突した。そのままわたしを組み敷く形となる。しかもなぜか逃げられないように両手を拘束される。
配信に気を取られていたわたしのミスとは言え、まさか簡単に捕まってしまうとは思ってもいなかった。少し疲れているのかもしれない。
「さあ、逃げずに教えるのだ!」
「色々あって疲れているのですが」
「休めたであろう。それに小娘が疲労するとは思えん」
「これでもあなたの接近に反応が遅れる程度には疲れてるんですよ」
それに織野華の配信を見ていたのである。配信はまだまだ序盤で、頭のおかしい剣技も頭薩摩な行動もまだ1つしか見れていない。
お楽しみタイムだったというのに、どうしてこんな頭のおかしい魔術バカの為に使わなければならないのか。
どうやって追い返そうかと考えていると。
「何があったのですか〜!」
わたしのそばの部屋に控えていたらしいシスター・アデーレまでもが突入してきた。考えずとも当たり前のことである。
ただでさえ今は魔人が出て警戒態勢なのだ。窓を突き破る音など響けば人がやってくるのは必然である。
「あっ」
「ワハハハハハハ」
「な、なぁ〜!?」
そして、ホテルの一室が爆発した。
●
「なるほど〜、お知り合いでしたか〜。すみません、襲われているかと思って爆破してしまいました〜」
部屋が爆破されてしまったので、ラウンジに移動したわたしたちは諸々事情を説明してとりあえずの事なきを得た。
シスター・アデーレの勘違いももっともである。目のイッているジジイに組み敷かれる少女の図は大層ショッキングであっただろう。
思わず爆弾を使っても仕方ない。問題は。
「わたしは大丈夫ですけど、何で直撃したあなたは無事なんですかね」
「ワハハハハハハ! 知らんな! さあ、魔術だ!」
これだからEXはと言いたくなる。わたしはガチガチに防御してようやくだというのに素でイタリアトップの通常攻撃に耐えないで欲しい。
「一応、資料は見てましたけど〜。すごい方ですね〜。単純な魔力出力が高くて私の爆破の威力を全部弾くなんて〜」
なるほど、魔力放出の出力だけで全力ではないとは言えイタリアトップの爆破を防いだのか。防御に必死で見てなかった。
「鍛えているからな!」
「魔術に関しては尊敬しますよ」
それ以外は尊敬できないわけだが。
「さあ、魔術を教えろ」
「魔力変換ですよ」
「魔術に属性が追加できるではないか」
「どうせ少しは真似してるでしょ」
「うむ、既存属性変換と追加は道中で覚えてきた」
イタリアへの飛行中に覚えるなと言いたかったがどうせ言っても聞かないので耐えた。
「聖属性を見せろ! 見ただけでは半分しかわからん!」
「半分もわかったかぁ」
本格的に魔術に関してはドッペルゲンガーと同じ性質であると認めざるを得ないようだ。やってることも大体わたしである。
そうなると断れない。
「じゃあ聖属性魔力を流してあげますよ」
「ありがとう!」
とてもいい笑顔だった。
聖属性魔力変換して、二宮金三郎に流し込んでやる。
「ウハハハ! なるほどそうかこうか! ん? ではこれをこうしてこうすればこうなるじゃろ? であの時のはー。【聖なる神に乞い願い、その奇跡の一端を、お貸しください——治癒】。よし、わかったぞぉ!」
この男、あろうことかヒールまで覚えた。わたしが配信でチラッとだけ見せたものを覚えていたようで、聖属性魔力を認識することで解析したようだ。
本当に魔力が見えていないのか疑いたくなってきた。
「い、今のは〜!?」
「ワハハハハハハ! 治療魔術だ!」
「治療魔術!?」
「この程度で驚いてはならんぞ、小娘はまだまだ見たことのない魔術を知っておるからな!」
「なんと〜」
この流れはまずいかもしれない。
「るみるみ様〜。イタリアに移住しませんか〜?」
「直球!!」
「その方が早いですし〜」
「もっとこう駆け引きとかは」
「私はただのシスターで探索者ですから〜」
「ワハハハハハハ! 良いぞ! 世の中、直球の方が楽だからな!」
「そうてますよね〜。金三郎様もいかがです? イタリア、良いところですよ〜」
「うむ、池田に聞いてみよう」
二宮金三郎は池田さんに電話している。
「うん、わしわし。イタリアに移住せんかって言われてある」
しばらく何事かを話してから二宮金三郎は戻ってきた。
「ダメだって」
「そうですか〜、残念です〜。まあ、EXの方ですもんね〜。るみるみ様は?」
隠れてわたしたちを見ている日本ダンジョン探索協会の黒服さんがものすごい勢いで首を横に振っている。
「お断りします」
「あら、何故ですか〜? 待遇はとても良いと思いますよ〜?」
「織野華はイタリアにはいないので。彼女をイタリアに連れてきてくれるなら考えます」
「なるほど、そう言われては無理ですね〜」
織野華は世界的にも知名度がある。特にトップクラスの探索者は必ずと言って良いほど彼女のことを知っている。
そして彼女は絶対に日本を出ないことが知られている。
彼女は国内外全ての勧誘を断ってソロで探索している。
何故なら織野華は、外国語が一切できない。だから海外は苦手で海外からの勧誘を断っている。何より豚骨ラーメンがないところには行きたくないとして全ての勧誘は一刀両断されたのである。
わたしを勧誘したいなら彼女の篭絡は必要不可欠。つまり不可能ということ。
「では、悪魔の倒し方だけで我慢します〜。十分大きな成果ですからね〜」
「よし、では行くぞ小娘ェ!」
「どこに?」
「決まっておろうダンジョンだ! フィレンツェには魔術師のモンスターが出てくるダンジョンがあるのだ!」
「1人で行ってくださいよ」
などと言葉だけで断れると思ったわたしは、まだまだ二宮金三郎についての理解が甘かったと思わざるを得ない。
わたしは話を聞かない二宮金三郎に拉致されて、そのままフィレンツェにあるミケランジェロ広場のダンジョンゲートへと放り込まれたのであった。
「勢いのある方ですね〜」
「当たり前のようにいるシスター・アデーレ。よくあの飛行について来ましたね」
「るみるみ様をお1人で行かせて何かあっては世界の損失ですから〜」
「うむ! 魔力の濃い良い場所だ! 深呼吸が捗るな! さあ、配信せよ小娘ェ!」
「何故に?」
「わし1人で魔術の深奥を独り占めはいかんじゃろ。技術は広めてこそ良い」
「なーんでそういうとこだけ人格者な風なんですか」
わたしが了承していないというのに、二宮金三郎はいつの間にかわたしの予備の配信機材でテキパキと配信の準備をして告知までやらかしやがった。
あとで協会の黒服さんに謝らなければなるまい。わたしを連れ攫われてお仕事失敗だ。EX相手だから情状酌量の余地はあるから、わたしも言ってなんのお咎めもなくしてもらわないといけない。
「さあ、配信開始だ! ワハハハハハハ!」
「はいはい、やりますよ」
断ったところで勝手にするだろうし、それならわたしのチャンネルで配信主として主導権を握っておいた方がいい。
既に告知もされてしまって後に引けないのだ。
「みんなー! るみるみだよー! 配信はじめていくよー!」
:朝っぱらから配信とは
:時差的には向こうは夜
:てか、配信して良いのか
:通知きてビビった
:魔術Gが告知してるのもビビった
:てか、なんか見切れてんぞ
:明らかにワクワクしたジジイがいるのだが
:ウキウキがかくしきれてねぇ!
:イタリアにガチで行ったのか……
:未確認飛行物体ジジイ、ついにイタリア上陸
:何してんだてめー!
:間に合わないばかりか拉致とは……
「見てのとおり、わたしは二宮さんに拉致られてミケランジェロ広場の魔術師ダンジョンに来てます」
「ワハハハハハハ! 魔術魔術! 今日は魔術師ダンジョンで魔術書を手に入れてくるぞ! 楽しみにしていると良い!」
:何るみるみを拉致ってるでござるかこのじじいは
:協会の人がめちゃくちゃ慌ててそうっす
:かわいそう
:仕方ないだろ、魔術Gだぞ?
:あーあーもうどーすんだ
:でも興味ある
「さあ、魔術の研鑽だ! ワハハハハハハ!」
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