第26話 フィレンツェダンジョン配信4/

 エリアボスの悪魔はエリア1の悪魔を単純に巨大化した様なモンスターだった。

 魔力総量は見た目通りで、小癪にも魔力を薄く幾重にも纏っている。魔力障壁とでも言うもので、聖属性魔力を届きにくくしているようだ。


「このボスには聖属性魔力が届きにくそうです」

「なんでわかるのよ」

「明らかなので」


 :何が見えてると言うのだ

 :魔力でしょ

 :るみるみ本人が見えるって言ってたからなぁ

 :探索大で魔力研究してるんだけど、この前出たばかりの論文だと魔力は高次元由来のナニカではないかとか

 :ナニカって?

 :研究中

 :そうなるとマジでるみるみアカシックレコード的なもの見えてそう


「聖属性の魔力が通りにくいとなるとどうしましょ~」

「魔力障壁を吹き飛ばすか、貫通ですかね。こんな感じに」


 手の中で水魔術を圧縮構築して一気に放出する。

 その一撃は魔力障壁を貫通してボス悪魔にダメージを負わせた。

 怒れる悪魔の一撃が、わたしたちのいる場所に叩きつけられるが、わたしたちは既に退避済みである。

 すぐに悪魔から距離をとって牽制の魔術を撃ってこちらへの接近を防ぐ。


 :すごいっす!

 :すげー!!

 :さっきのなんかアニメで見た気がする!

 :拙者も見覚えがあるでござるな!

 :穿○だ!

 魔術G:魔術を圧縮じゃとぉぉ!!

 :どゆことだ、ジジイ!

 :圧縮?????

 :わからん

 :るみるみ解説してぇー!


「これは手先から発動する魔術を手の中で発動させたんですよ。手は魔力で覆って魔術の出口を限定して放出させました。ちなみにさっきのはタイダルウェイブです」


 :草

 :タイダルウェイブを両手で押さえて圧縮して放ったって?

 :?????

 :????????????

 :わー、おそらきれいー

 :現実逃避すなー!

 魔術G:魔力強化を使えば、しかしそれでは衝撃が……なるほど魔力で砲身をそうか、その手があったか……! そうすれば……!

 :魔術Gが何か掴んだぞ!

 :こいつ、まだ強くなる気か!

 :いや、単純に魔術の使い方を学習してるだけだ、強さに興味はないぞ、このジジイは

 :そりゃそうだ

 :良いだろ? 魔術Gだぜ?


「アンタ、本当に器用ね……」

「器用さだけが取り柄でここまでやってきたもので」

「なるほど~。私には難しいので~」


 シスター・アデーレは、ポケットの中から大量の爆弾を取り出した。


「こうしますね~。え~い」


 かわいらしい掛け声とともに大量の爆弾がエリアボス悪魔に投げつけられる。

 1つが爆発すれば、連鎖して爆発が重なる。


「■■■!!!」


 その衝撃は壊れないとすら言われているくらいに丈夫なダンジョンの床に、巨大なクレーターを穿つほどであった。それどころか周辺が更地になっている。

 探索者でなければこの爆風の余波だけで木っ端微塵になってしまうことだろう。それくらいには凄まじい威力であった。

 むしろオーバーキルである。半分か、三分の一くらいで十分だったのではないだろうか。悪魔は欠片すら残っていない。


「あ~、やりすぎてしまいました~」

「何故にあんなに?」

「間違えちゃいました~」


 :もうすごいというより、ドン引きのレベル

 :これが……世界か……(白目)

 :トップ探索者は、国家転覆級とか言われることあるけど

 :これ見たら、あながち誇大表現とは言えないよなぁ……

 :ダンジョンの壁とか床って、絶対に壊れないって代物じゃなかったっけ……?

 :いや、強度以上の攻撃をすると壊れる

 :どんくらいの強度……?

 :わからんくらいの高強度

 :核でも傷つかない

 :じゃあ、あの爆弾の威力って……

 :ヤバイ

 :いったい何と戦うつもりなんです?

 :ゴ〇ラとか?

 :怪獣との戦いを想定してらっしゃる?

 :日本でこの威力出せる奴いるのかよ

 :いる

 :誰よ

 :頭薩摩の妖精

 :あー

 :また頭薩摩か、壊れるなぁ

 :あいつだけぶっ壊れだから

 :なんだったらダンジョンの壁とか床とかスパスパ斬るから

 :おかしいだろ……

 :るみるみの目標でもある


「ともあれ、これで第2エリアに進めますね。早速行って」

「おい小娘ども。そこまでだ」


 ぬるりとした気配に全身が総毛立った。

 いつの間にそこにいたのか、第2エリアへと続く道筋を塞ぐ様に男が立っていた。

 このわたしが見逃したことに驚愕を禁じ得ない。それほどの隠形ともなるとトップ探索者となるが、これほどの業前を持つものはわたしは知らない。


 何よりこの男の魔力の色は赤と青の混ざった気持ちの悪い紫だった。

 魔人だ。


「いつの間に」

「誰ですか〜」

「……」


 :えっ、誰

 :何者でござる?

 :奥から来たよな?

 :急に現れた様にも見えたっす

 :誰か知ってるやついないかー?

 :海外勢もわからんいってんぞ

 :正体不明か

 :上位悪魔とかじゃね?

 :人型悪魔がいてもおかしくはないのか?

 :それにしたってなぁ

 :そもそもモンスターが喋るか?

 :明らかに喋ってたよな

 :じゃあ人か?

 :でもフィレンツェダンジョンって今、るみるみたちの貸切だろ?

 :じゃあ、人じゃないかー

 :でも人っぽいぞ

 :じゃあ、人かー


 男が一歩こちらに歩いてくる。


「まったく、攻略できないダンジョンだから良い拠点であったと言うのに」


 男は心底嫌気がするとでも言わんばかりのイライラとした口調で、こちらを睨め付ける。

 一花がわたしを後ろから抱えるように庇う。


「ねぇ、アイツって」


 わたしは頷いた。一花は苦々しげな顔になる。


「アンタやっちまいなさいよ。手元は隠しといてあげるから」


 なるほど、だからわたしを後ろから抱えるような体勢なのか。ちょうどカメラからわたしの手元が隠れるようにしてくれているのだ。


「どーも」


 ならば遠慮なく。

 しかし、嫌な予感がする。杞憂だと良いが、この予感が本当だとするとまずい事実が配信されてしまうことになる。


「まあいい、殺してしまえば問題ないか。死ね、小娘ども」


 いや、躊躇う時間はない。勿体無いがカメラも一緒に壊してしまおう。

 男が手をあげる瞬間、目が赤く輝くと同時にわたしは動いた。


「うん?」


 男の手が落ちる。さらにカメラも壊れて何も映らなくなる。

 その直後に首も落ちた。


 :えっ!?

 :カメラ壊れた!?

 :何が起きたでござる?

 :え、これやばいやつなんじゃ?

 :あの男、ダンジョン犯罪者ってやつなんじゃ?

 :なんかやべーやつみたいだ!

 :大丈夫なのか!?

 :流石にイタリアトップも一緒だから大丈夫と信じたい

 :祈るしかできないっす

 魔術G:行くしかないか、イタリアへ

 :魔術G!!

 :もう止めねぇ! 行けぇ!

 :行ってるみるみ助けてこい!

 魔術G:魔術ならいに行ってくる!

 :ちげーよ!

 :なんでだよ!!

 :この流れは救援だろ!

 :救援に行くでござるよ!!

 :ほんとこのジジイはよぉ!


 突然のカメラ破壊にコメントは大混乱だし、魔術Gがこちらに飛んできているらしいが、とにかく首を落とした。

 少なくともただの魔人ならこれで終わるところだが。


「やっぱりダメか」

「上級魔人ね、クソ」

「あら〜」


 首を落とされた男の死体はダンジョンに吸収されたかと思いきや、ダンジョンの床からした。


「なんだ? 死んだのか。ひでえことしやがる。まるで見えなかったが、なるほどこれが噂のインビジブルエッジとやらか? どいつだ?」


 最悪だ。わたしの情報持ち。わたしはわたしと相対した魔人は必ず処分するようにしている。わたしの技は知られていない方が強いからだ。

 おそらく消えた魔人首飾りが関係しているに違いない。わたしと出会って逃げられたのはやつ以外にいない。


「……瑠美、シスター。アタシが合図したら逃げて」

「ですが、あの方は魔人です。それも普通ではございません。危険です」

「了解」

「るみるみ様!? よろしいのですか!?」

「協会の指示には従うって約束なので」


 それにここから人の目を取り除くのが優先だ。魔人の存在を知っているシスター・アデーレも残っていいが、天岩戸の戦い方がバレるのは今後のことを考えると不味い。

 わたしの情報持ちというならわたしが戦いたいところなのだが、あいにくと今はただの一般配信者でしかないのが悔やまれる。

 さっさと脱出してしまった方が良い。


「行きましょう」

「ですが」


 わたしはシスター・アデーレを引っ張って来た道を戻る。


「死なないでよ。まだ甘えてない」

「甘えさせてやるわよ、アタシなしで生きれなくなっても知らないから」


 軽口を言ってもわたしの視界から一花が消えると同時、戦いの檄が響き始めた。

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